共通するのは“DIY精神” PIZZA OF DEATHがテック分野に進出する理由

PIZZA OF DEATH、なぜテック分野進出?

 インディーズレーベル〈PIZZA OF DEATH〉が2021年3月1日、IT/ロボティクス企業であるフューブライト・コミュニケーションズ株式会社/クリエイティブオルカ株式会社との共同出資のもと、新会社であるLinercraft株式会社を設立した。

 同社は昨今の目まぐるしい音楽業界の変化にいち早く対応し、アーティストそして音楽ユーザーにとって新たな音楽の体験価値を創造することを目的として設立。VR/VFXを中心に、映像作品やライブイベントで実写とCGをリアルタイム合成する撮影技術や、配信プラットフォーム・ユーザーインターフェースなどを開発から一貫してDIYで企画制作していく。

 〈PIZZA OF DEATH〉のテック分野進出という、音楽ファンにとって意外な取り組みは、なぜ、どのようにして進み、何を目指すのか。リアルサウンド テックでは、〈PIZZA OF DEATH〉の磯部友宏氏、Linercraft株式会社の代表の居山俊治氏、開発者兼クリエイターの末宗佳倫氏と、チーフクリエイターでデジタルアーティストの高橋カズサ氏の4名を取材。古くは1990年代から続くそれぞれの関係性や、会社設立の理由、〈PIZZA OF DEATH〉の視点から見た音楽業界の課題について、じっくりと話を聞いた。

新型コロナで一変した音楽シーン。未来に向けて選んだ“自分たちでつくる”こと

左から〈PIZZA OF DEATH〉の磯部友宏氏、開発者兼クリエイターの末宗佳倫氏、Linercraft株式会社の代表の居山俊治氏、チーフクリエイターでデジタルアーティストの高橋カズサ氏
左から〈PIZZA OF DEATH〉の磯部友宏氏、Linercraft株式会社 開発者兼クリエイターの末宗佳倫氏、Linercraft株式会社の代表の居山俊治氏、チーフクリエイターでデジタルアーティストの高橋カズサ氏

――まずは磯部さん、居山さん、末宗さんの3人がそれぞれ知り合ったタイミングを教えてください。

居山:磯ちゃん(磯部)とは大学の友達なので、もう25年くらいの付き合いになります。一緒にバンドをやっていた時期もあったんですが、学生時代に僕はコンピューターにハマって、そっちの道へ進みました。そこから、磯ちゃんがPIZZA OF DEATHに入った縁で、最初はPIZZA OF DEATHのホームページや通販のシステムの開発を手伝ったりしてました。

Linercraft株式会社 代表の居山俊治氏
Linercraft株式会社 代表の居山俊治氏

磯部:1990年代なので本当に初期ですね。僕は1999年のPIZZA OF DEATHが法人化したタイミングで入社したんですが、当時はまさにインターネット聡明期で。ホームページや通販のサイトを作ったり、システムを開発できる人間は限られてたんですが、居山が手伝ってくれていたことで、その辺りの仕組みが他のインディーズレーベルよりも整っていたと思います。

居山:あの当時、何もなかったもんね。事務所の床も畳だったし(笑)。

磯部:そうそう。ハイスタ(Hi-STANDARD)の『MAKING THE ROAD』をリリースしたときは、Windows一台とMac一台が会社にあって、社員3人でパソコンの順番待ちをしてたかな(笑)。

〈PIZZA OF DEATH〉の磯部友宏氏
〈PIZZA OF DEATH〉の磯部友宏氏

居山:末宗くんとは、僕がロボット関連の会合に行ったときに知り合いました。みんなスーツなのに一人だけアロハでモヒカンみたいな人がいたので、興味をそそられて声をかけて、その日のうちに飲みに行ったんです。それから彼と一緒にロボット関連の仕事を一緒にするような関係性にもなって。

――会社設立のタイミングはいつだったんですか?

居山:2020年の3月、新型コロナウイルスの影響で様々なライブが中止になったときに「なにか新しいものを考えなきゃいけないね」と磯ちゃんと話をしていたところからスタートしていて。

磯部:サブスクリプションサービスや5Gなど、エンタメに直結するテクノロジーが目まぐるしく変化するなかで、はたしてこのままで大丈夫なのか、未来の音楽エンタメはどんなものになるのか、その時に自分たちはどうあるべきか、という危機感があって。居山に相談したら、IT畑の人らしく「新しいものを作ればいいじゃん」と言ってくれて、そこから「じゃあ、一緒にやろうよ」と、具体的な話を進めていきました。

居山:「音楽の未来には、絶対にテクノロジーが必要になってくるから」という話をたくさんしましたね。その後、2020年9月に行ったWANIMAのZOZOマリンスタジアム公演で、僕らがカメラのシステム周りを担当させてもらって。その段階で末ちゃん(末宗)が一緒に入ってくれて、無事に成功したことで、自分たちのやっていくべきことがある程度見えたような気がして、3月に共同出資という形で会社を設立しました。

磯部:そのときは無観客配信ということもあって、24台のカメラをステージの周りに360度に設置した新しい映像演出を行うための専用のスイッチングシステムをソフトからも作ったんだよね。

開発者兼クリエイターの末宗佳倫氏
Linercraft株式会社 開発者兼クリエイターの末宗佳倫氏

末宗:ハードウェアの選定から現場のワークフロー、制御プログラムに至るまで、全部イチから作りました。リハーサルのときでも現場の状況に合わせてリアルタイムにプログラムを改変し、空間を意識させるクリエイティブな演出を完成させました。実際は36台で実験していたので、あと12台を増やし、よりドラマティックな演出も可能です。これまで培ったロボティクスの技術が役に立ちました。

居山:結果、すごく面白い画になったよね。

末宗:システムはスイッチャーの入力を高速で切り替えたり、ステージ中央に設置した360度カメラから出力の角度を変えたりすることに使っていて、曲ごとにどのタイミングでスイッチングするかを制御できたり、360度カメラの出力をUnreal Engineに取り込んで画像・映像処理したりと、いまあるライブの先端技術を駆使しました。

――そんな成功体験があったうえで、Linercraftとして「こういうことを目指そう」という方向性が決まっていったと。

居山:方向性といえるかどうかはわかりませんが、コロナの影響でライブができなくなったからこそ、それに代わる新しい体験を作っていこう、考えていこうというのがモチベーションになってました。収録ではなくリアルタイムでどこまで合成できるか、VRなどにどう落とし込んでいけるかを研究・開発していて、自分たちだけではないあらゆるアーティストが使えるインフラとして作りたいというのが、いまの大きな目標です。

大事なのは「高い表現力と技術力をセンスよく使うこと」

――プレスリリースを見る限りだと「VRやVFX中心にリアルタイムで実写とCGを合成」「配信プラットフォームの開発をDIYで行う」と、壮大な計画が並んでいて驚きました。

磯部:居山からすると、そこまで大きな風呂敷を広げているわけでもないと思う。WANIMAのスイッチングシステムもそうだけど、自分で組み立ててプログラムして動かすくらい、ハードとソフトに対する技術的な知見を持っているし、これまでもいろんなものをゼロから作ってきてますから。

居山:プラットフォームというと大げさに聞こえるけど、アナログな作業も含めて新たな仕組みを作るということですからね。技術的な課題はまだありますが、ないものは作るしかないし、技術的な部分よりもライブやリアルタイム感を出すためのアイディアや仕掛けを考える方が大事だと思っています。

磯部:技術力もあるので、基本的には無いなら作ればいいというインディペンデントなマインドは、ある意味〈PIZZA OF DEATH〉っぽいですよね。資本を大々的に投じて、大企業と提携してということではなく、まずは自分達で作って確かめる。また開発した技術を所属アーティストと試せることが、自分たちの強みだとも思います。あとはそこに共鳴してもらうことも大事で。カズサが作ってくれたサスフォー(Suspended 4th)のカッコいいトレーラー映像(「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」)にPIZZA OF DEATHの宣伝担当やメンバーが満足しているように、同じ技術を持っていても、センスがないやつが作るとダサいし面白くないんですが、あるやつが作ると想像以上のクリエイティブになりますから。

【9/29配信】Suspended 4th New デジタルシングル「ブレイクアウト・ジャンキーブルースメン」Trailer

末宗: 高い表現力と技術力をセンスよく使うこと。カズサのフレッシュな感性が随所に光っています。ぼくらは叶えたい体験を実現するために表現とテクノロジーをどう組み合わせるかを、監督、クリエイター、技術者、みんなで話し合い、カッコいいと思える感性が一番になるように、そのバランスをとても大事にしています。

――音楽×テクノロジーという分野で色々と取材をしたり体験をするなかで、格好良く見えるかどうかは、アーティストの特性や世界観とマッチした「身の丈に合ったテクノロジーの使い方」ができているかどうかだなと感じています。それを無視して技術先行になると、どこか浮いているような感覚になったりするわけで。みなさんがそこを初めから踏まえてテクノロジーを活用していくと決めているのは、非常に心強いです。

磯部:レーベル側からすると、MVを作るにしても、バンドやアーティストが格好良く見えるテンポ感、というのが存在していて。実写のMVを作っていても、そのあたりの価値観をすり合わせたり、方向性の修正が必要だったりするのですが、今回のトレーラーはほとんど口を出すことがなかったのも驚きましたね。

――カズサさんがTwitterへ投稿した動画に、VFX界の巨匠であるイアン・ヒューバートが反応し、1晩で20万回再生を記録するなど大きな話題にもなりました。(参考:https://www.blendernation.com/2021/03/10/breakdown-the-future-is-just-around-the-corner/

磯部:キャリアなど関係なしに、良いものを創ったら正当に評価されて広がる、というのは今ならではですよね。サスフォーのトレイラーに関しては、未経験のカズサが監督をして、VFXもCGグラフィックも全て仕切ってやりました。カメラマンさんにも指示出しをして、照明さんにも「こういう画を作りたいんでそれに合う照明にしてほしい」というオーダーを出しているんです。明確なビジョンをもってディレクションできていて、頼もしいなと思いました。

居山:トレーラーの絵コンテを3DCGで描いてきて、照明さんに説明してたのはビックリしたね。本人に聞いたら、「紙に絵コンテを描くよりCGの方が早いんで」って(笑)

――今回のトレーラーはサイバーパンク的な世界観でしたが、あのアイデアはどういった形で生まれたのでしょうか。

カズサ:最初にいただいたデモ音源は最終的な楽曲とかなり違っていたので、元々は別の演出を考えていたんです。そのあとにほぼ完パケの音源をいただいて聴いたときに「この演出は違うな」と思い、サイバーパンクな世界観に作り替えました。

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