リアルタイムでLEDに映像転送するシステムが誕生 光の演出とハードウェアの進化史

光の演出とハードウェアの進化史

 SAMURIZE from EXILE TRIBEの生みの親であり、LEDを使った旗「LED VISION FLAG」や新体操のリボンを光らせた「WAVING・LED RIBBON」の開発、『東京2020 パラリンピック』開会式で光の演出を担当したクリエイティブカンパニー・mplusplus株式会社の代表・藤本実氏による連載「光の演出論」。

 今回は先日の『デジタルコンテンツエキスポ 2021』で発表した新技術「Realtime LED Control System」と、光の演出を支えるハードウェアの変遷について、同社CTOの柳沢豊氏とともに語ってもらった。(編集部)

リアルタイム映像転送システム、完成までの歴史

――まずは『デジタルコンテンツエキスポ 2021』で発表された新技術「Realtime LED Control System」について聞かせてください。

藤本:「Realtime LED Control System」はリアルタイムに映像を転送するシステムです。今まではSDカードに入れたデータをハードに読み込ませて再生することで、プログラムした光らせ方を再生するという形だったんですけど、それがリアルタイムでできるようになった、という大きく前身した技術です。1対1でカメラの映像をパソコンに飛ばすHDMIトランスミッターという製品があるんですが、その1対nバージョンですね。たとえば、「LED VISION FLAG」を持った人が100人いたとして、そのフラッグにそれぞれ違うSNSのコメントがリアルタイムに出てきたり、ライブのバックスクリーンのようにリアルタイムの映像を映すことができるようになりました。これまでは、どんなLEDにも映像を飛ばせますという製品がまったくなくて、結果自分たちで作ったわけなのですが、大幅にいろんなものが変わりました。なんでこれまで無かったんでしょうね。需要がないからですかね?

柳沢:まあ、需要がないんでしょうね(笑)。

藤本:ワイヤレスでLEDを同時に100個でも200個でも制御しなきゃいけないという状況下にある人が自分たちしかいないので、誰も作らないという(笑)。これまでは市販されてる無線機を使っていたんですけど、今回はその無線機では難しかったため、柳沢に特別な無線機を作ってもらいました。常にリアルタイムでデータを送るようになったので、データ量が格段に違うんです。これまでもクライアントから「フラッグにコメントを出したい」「後ろのディスプレイに映像出すのはできるんだから、フラッグでも同じことができますよね?」と言われたことは少なくなくて。毎回「無線と有線では全然違うんです」と回答してきたのですが、これでようやくそのリクエストに応えることができます。

――そもそもLEDを服に5000個つけて踊るという技術・演出もそうですが、さらにほかの会社やクリエイターに真似できないものを作りましたね。

柳沢:うちでやってることは、全体的にそういう感じです。「あれできるよね?」とほかのところに言っても「どうやってやってるのか分からないので無理です」と言われるものが多いと思います。

藤本:テック系の人たちは、うちのハードウェアやシステムを見るたびに「どうやって実現したんですか?」と、すごく驚いてくれるんですよね。「LED VISION FLAG」も「WAVING LED RIBBON」も、あの中にどうやってこれだけのLEDを内蔵して制御させているのかがわからないそうで。

ーー今回はその「なぜ?」を紐解いていくために、柳沢さんと藤本さんのバックグラウンドや、開発してきたハードウェアの変遷について聞いていこうとおもいます。柳沢さんが藤本さんと最初に出会ったのは?

藤本:自分が神戸大学大学院工学研究科の研究室に入ったとき、柳沢はNTTのCS研(コミュニケーション科学基礎研究所)という研究所にいて、自分の指導教員である塚本昌彦教授のところに出入りしていて。出会ったときは企業の研究者と学生という立場でした。

――そんなお二人がどうして一緒に会社を立ち上げることになったのでしょう。

藤本:そんなに仲が良かったわけでもなく、7年間くらいは5分以上話したことすらありませんでしたが、自分が東京工科大学の教員になったとき、たまたま学会で再開したんです。そのときに、バスの車内で初めて30分くらい話したのですが、これまでにないくらい盛り上がりました。それから少しして、自分がLDHさんからお仕事をいただくようになったのですが、最初は起業する気などなく、大学の教員をやりながら、ライブエンターテインメントの仕事を続けようと思っていました。

 ただ、仕事量的にどう考えても両立できないくらい忙しくなってきた時期に、柳沢とCFOの中田と塚本先生の4人で食事に行ったんです。そのときに柳沢が「藤本くんが会社を設立するなら、自分は研究所をやめる」と言ったことが衝撃的で。自分はハードもソフトも演出もできるけど、全部がスペシャリストではないから独立にはまだ早いと思っていたので、ハードウェアのプロフェッショナルであり、自分が尊敬している研究者の柳沢と一緒にやれるなら、会社として成立するんじゃないかと思いました。中田も別の会社をやっていたのですが、柳沢の発言を聞いて「じゃあ私もやめる」と言い、二人とも関西から東京に来てくれたことで、mplusplusという会社が立ち上がりました。

――大手の研究所を突然やめて起業する、というのは大きな決断だと思います。柳沢さんは藤本さんにどのような可能性を感じて、そのような行動に移ったのでしょうか。

柳沢:いやあ、面白そうだったんですよね(笑)。本音を言えば、NTTを辞めたいわけではなかったんですが、当時は副業が認められていなかったので、思い切って「じゃあ、面白そうだし藤本くんについていくか」と。

――エンタメ領域でのテクノロジーを使ったライブ演出というのは、柳沢さん自身の関心領域でもあったんですか?

柳沢:いえ、私の関心領域や、それまでやってきたこととは真逆といえるくらいの領域です。いまでもエンタメ自体が好きでやってるというわけではありません。ただ、エンタメ領域で活躍するハードウェアを作るというのは、これまでとはまったく違う観点で作らないといけないことが多い。頭を使うところが違うという意味で、非常に面白さを感じているんです。また、私と同じ分野でやっていた人たちは、この分野にまったく参入してきていない。だからこそ、ある意味独壇場みたいな状態になっていて、それも面白いところではありますね。

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