リアルタイムでLEDに映像転送するシステムが誕生 光の演出とハードウェアの進化史

光の演出とハードウェアの進化史

80個から4096個まで 制御ハードウェア進化の歴史

mplusplusが開発しているハードウェア
mplusplusが開発しているハードウェア

――mplusplusのハードウェアの歴史は、どこがスタート地点にあたるんですか。

藤本:arduinoという、誰でも簡単にLEDを光らせたり動かすことができるプラットフォームを使って、ひとつのデバイスでLEDを80個制御できるものを自分で設計して作ったのが一番最初の制作物です。ただ、全然プロフェッショナルな作り方ではなくて。iPhoneの中身と同じクオリティで作れるような人がいないと成り立たないなと思いました。

――柳沢さんが入って一緒に立ち上げてから最初に取り組んだものは?

藤本:根幹となる「LEDを制御するデバイス」を最初に作ってもらいました。これがmplusplusのハードにおける大きな柱であり、現在も改良を続けています。いまで何世代くらいでしたっけ?

柳沢:大きく言えば4世代ですね。

藤本:自分が作っていたときは、ひとつのデバイスでLEDを80個制御するのが限界でしたが、いまは最大4096個のLEDをひとつのデバイスで制御できるようになっているうえ、デバイスのサイズが80個のときとあまり変わらないんですよ。チューイングガムがちょっと大きくなったサイズで、身体に取り付けられるんです。

――各世代ごとにどのように変化していったのでしょう。

柳沢:デバイス1つあたりLEDを80個制御していたのが第一世代、その次は1つで100個を制御できるようになりました。第3世代になるといきなり1000個を制御できるようになって、現在は最大4096個を制御できるようになりました。

藤本:第4世代は最大4096個なのですが、常時2000個くらいを制御して使うためのものとして作っています。それができたことによって、両面で4000個のLEDを使う「LED VISION FLAG」の制御が可能になりました。80個制御のデバイスでも、たくさん使えば大丈夫なのですが、そうすると重すぎて人の持つことができる重さではなくなってしまうんです。基本的にはどのような演出をしたいかということを軸に考えるので、実用的でないプロダクトは開発できないんです。そういう意味で、制御系のハードウェアが革新を起こすことによって変わったこと、実現できるようになったことはかなり多いです。

ーーそれらのデバイスにおいて、柳沢さんが考える他社との違いはなんでしょう?

柳沢:安全であること、ですね。弊社のデバイスは、一度も事故を起こしたことがありません。もしライブ中に発火したとなれば、パフォーマーの方に怪我をさせてしまうことになるので、そのようなことは絶対に起こらないようにしています。

 その次に大事にしているのは、パフォーマンス時に本人の邪魔にならないよう、できるだけ小さく軽くしていること。そこは藤本からもかなり厳しく言われていて、軽さを守りつつ安全性を担保するために、犠牲にしているものは多いです。一番犠牲にしたのは耐久性で、使い方が分かってる人たちは問題ないのですが、普通の人が使ったら数分で壊れるようなデリケートさを持っています。

藤本:自分たちで販売はしてないのも、そういう理由があるんです。2000個制御できると言いつつ、2000個のLEDの光量をすべてマックスで点灯させると壊れてしまうといった制約があるので、自分たちで最大電流を計算しながら使っていますし、自分たちも200〜500個くらいで使うことの方が多いです。1000個を使うときは光量を下げたりといった工夫もしています。

――制約はあるにせよ、小型化軽量化ができていて、かつ安全性もしっかりしているものを作れるようになったのには色んな歴史があると思います。ターニングポイントのようなものはあるのでしょうか。

柳沢:部品などを違うものにするときには時間がかかりますね。技術的にというより、本当に動くかどうかの信頼性テストのようなもので。しばらく使ってちゃんと動くと分かったらようやく使えるのですが、その前まで使ったデバイスからの切り替えには、結構な時間がかかります。

藤本:自分たちの現場は400デバイスくらいを使うことがあるのですが、例えば100デバイスは旧バージョン、300デバイスは新バージョンなど、まったく設計の違うデバイスを同時に運用することがあります。そういうときでも同時に制御できないといけないんです。

柳沢:あとは、小さくすることがやはり難しいですね。

――以前にも見せていただきましたけど、どこか一部分が壊れてもいいように設計してあったりと、mplusplusのハードウェアはそういう使い勝手の良さ、みたいなところも考えてありますよね。

藤本:一番最初に自分が作った簡易版では、壊れた部分の制御ができなくて、絶対真っ暗にならないといけないところで壊れたところがずっと光ってたりしたんです。流石にそれはまずいと思って、柳沢に「右腕が壊れたときに、その箇所だけを消すことはできないか」と無茶振りしたり、いきなり理由が分からず点かなくなると困るので「バッテリー残量を可視化できないか」とお願いしたり。そういう見えないエラーをつぶしていきました。

柳沢:実際、このサイズのデバイスで光らせる機能っていうのは全体の3割くらいしかなくて。残りの半分くらいは安全を確保するため、さらに半分くらいがいま話したようなメンテのために割いているんです。

――安全面、メンテナンス面をどれだけちゃんとできるかっていうところに進化の歴史が入ってるわけですね。

柳沢:だからサイズを小さくしようとすると安全面とかメンテの部分を削らざるを得なくなってくるんですよ。あまりにリクエストが膨大だと「ここ削ると危ないけどいいの?」と聞いたりするんですが「それは嫌です」と。

藤本:いままである機能を削る発想はないし、安全を犠牲にはしたくないですよね。大きさに関しては、一番最初に作った80個制御するためのデバイスでギリギリだと思ったので、それが2000個制御可能になったとして大きくしていいわけではないと思っています。大きくすると演者さん側が「ポケットに入れて踊るの、邪魔だな」となるんです。

柳沢:だから非常に難しい。

――そんなせめぎ合いのなかで、できる限りのことをしたのが現在のバージョンなんですね。いま藤本さんから柳沢さんに「こういう機能を追加してほしい」みたいな最新の要求はあるんですか?

藤本:僕は無茶なことを言い続けていますよ(笑)。最近だと「故障したことを検知してそこだけ消せるようにしてほしい」みたいなことを言ったりしました。右腕の途中まで切れたなら右腕の途中まではつけてほしい、みたいな。流れてる電流から、本当は1Aを流しているのに0.5Aしか点いてない場合「多分ここ点いてない」と予測して止めれるんじゃないか、と想像だけでお願いしたり。

柳沢:技術的にはできるけど、コストが高すぎてあまり現実的じゃないんです。結局どんなことでも技術的にはできてもペイしない。

ーー藤本さんからのある種「無茶振り」的な要求も、技術的に不可能ではないとするところに柳沢さんのすごさを感じます。新たな部品が市場に出たり、安くなったりすることで突然実現することが多かったりするのでしょうか。

柳沢:まさに、あるタイミングで部品が安くなって作れたり、長い間考えてる間にぱっとできる方法が思いついたりとかするんですよ。

藤本:「WAVING LED RIBBON」もそうでしたね。2〜3年前から「数ミリのリボンスティックを無限回転にしたりできないか」とお願いしていたら、ある日突然ニヤニヤしながら会社に入ってきて「あのリボンの件、できるかもしれない」と言ってくれたり。いつも僕は自分の中で原理的には大丈夫だと思ってお願いすることが多いんですが、リボンに関しては自分でも現実的ではないかもしれないとお願いしていたので、とても驚きました。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる