枝分かれする『神椿市建設中。』の世界線ーー『神椿市建設中。EMERGENCE』完結によせて

枝分かれする『神椿市建設中。』の世界線

 ブラウザゲームや公式Discordサーバー、YouTubeでの配信番組が連動するKAMITSUBAKI STUDIOによる1ヵ月間限定の共創型コミュニティアドベンチャー『神椿市建設中。』。このプロジェクトが、10月の最終日で一旦のクライマックスを迎えた。今回は最後の1週間の振り返りと、プロジェクト全体を遊んでの感想をまとめてみたい。

 これまでの3回のコラムでもまとめた通り、『神椿市建設中。』は「共創者」と呼ばれるユーザーが協力して『Q』を解決していくプロジェクト。KAMITSUBAKI STUDIOのファンがともに困難な『Q』に挑むことでコミュニティを育むような側面もあり、『Q』のバラエティも様々で、スマートフォンの位置情報やカメラ機能を使ったもの、特殊な解読法や複数の知見が必要なもの、ゲーム内オリジナルゲームといった難問に挑戦することで絆を強めていった。

 だとするなら、プロジェクトの最終週は、その前提をひっくり返すような驚きの展開が待っていた。いまからでもゲーム内の要素は追体験できるために、『神椿市建設中。』の物語自体を詳しく書くことはしないが、『Q』を解きながら神椿市の謎に迫ってきたユーザーたちは、最終週でいよいよ「行政廳舎ユルバニスム」に辿り着く。そして31個目のQとなった「扉」は、YouTubeの配信番組『神椿市建設中。都市開発通信』の配信中にリアルタイムで進行。力を合わせ『Q』を解いたところ、突如ゲーム内の神椿市が崩壊し、1ヶ月かけて進めてきたゲームの進行がふり出しに戻ることに。それだけでなく、現実世界でも公式Twitterが文字化けし、Discordが一時シャットダウン。『神椿市建設中。』のほぼすべての機能が一時停止し、YouTube配信のコメント欄でユーザーがあっけにとられる中で、「10月31日18:00 この場所で再び―」というやや文字化けしたメッセージが浮かび上がった。

 そして10月の最終日、翌31日18:00からの『神椿市建設中。都市開発通信』では、神椿市の再生を目指して、リアルタイムで複数の『Q』の解決に挑戦。番組にはV.W.Pの5人、プロデューサーのPIEDPIPER、番組MCの山口慧といった1ヵ月間『神椿市建設中。』にかかわってきたメンバーが全員集合し、特別ゲストとしてゲーム内のナレーションを担当した佐倉綾音も登場。前日一時シャットダウンした公式Discordサーバーも復活しており、ここでの『Q』の解読を生配信することで、すべての人々が集結しての最終決戦が行なわれた。

 この日の『Q』では、参加者全員で、神椿市が繰り返してきたループを変える分岐点に立ち向かうこととなる。たとえば「再戦」では、全員が見守る中で、有志によるスプレッドシート上での解読の様子がリアルタイムで配信に映し出され、V.W.PのYouTubeの動画の概要欄に記載されている「From Virtual to Real world. Weave a story. We are」という文章から最後の解「V.W.P !」が導き出された。そして最後の『Q』となった「わたしたちのうた」では、ところどころ黒塗りされた新曲と思しき謎の歌詞を、日本の地名を入れることで完成させていく。開始当初よりも増えた様々な人々の想いがここで改めてひとつになり、「運命は変えられる!」というプロジェクト自体のテーマを感じさせるような展開で1ヵ月の最後を締めくくられた。

 今回のプロジェクトを通して魅力的に感じたのは、1ヵ月に及ぶトライアル&エラーの中で、KAMITSUBAKI STUDIOを起点にした人々の繋がりが可視化されていったこと。もともと「観測者=リスナー」として生活していた人々が、ここではともにプロジェクトをつくる「共創者」となり、互いにコミュニケーションを取りながらコミュニティの輪を広げていった。また、各々のかかわり方を尊重するグラデーションも印象深い。謎解きが得意な人、情報を整理するのが得意な人、具体的な貢献はできなくても日々の交流を楽しみたい人、発言はしないけれどもその様子を見守る人など、様々な参加者が、それぞれのかかわり方でプロジェクトに参加。結果として、ゲーム内には累計2万5000人、Discordサーバーには累計1万2000人もの「共創者」が集まることとなった。

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