ゲームにおける「DLC」の意義とは? 『Ghost of Tsushima Director's Cut』から考える

 だが、おそらくそれ以上に重要なのは、壱岐島各地に点在している父と過ごした思い出の場所だろう。プレイヤーはそれぞれの場所を訪れることで、かつてこの地を訪れた当時の境井仁として、その時の記憶を追体験することができる。戦闘要素などは無いために「プレイする映画」という印象が強いが、虐殺に加担した当時の境井仁の葛藤や、その行動に疑問を抱きながらも、同時に深く尊敬する存在でもあった父・境井正との関わり方をよりリアルに感じることができるだろう。また、全て進め、記憶と正面から対峙することで、境井仁の中に存在していた境井正の印象が少しずつ変わっていく様子も描かれていく。とはいえ、この「父との記憶」パートはあくまでストーリーとは全く別の独立したアクティビティであり、一切触れずに物語を進めていくことも可能だ。それはある意味では、本作がプレイヤー側に境井仁にとっての境井正との関わり方を委ねていると捉えることができるかもしれない。

 そうして、父という存在、自らの中にある罪悪感や恐怖と対峙しながら壱岐島を巡り、物語は終盤へと突入する。本編における「誉れを捨てた己の罪と対峙する」という展開も非常にドラマティックなものではあったが、「自らを支配してきた恐怖、過去の自分の罪と対峙する」という「壹岐之譚」のクライマックスは、長い時間を境井仁という人物と共に過ごしてきたプレイヤーであればあるほど、より痛々しく、そしてリアルに感じられることだろう。

 以前、開発元であるSucker Punch Productionsは『inFAMOUS』というシリーズを通して、プレイヤーの行動に伴う「罪(カルマ)」を物語の一つの主題として描いてきた。欧米の大都市を舞台に超能力を使って縦横無尽に活躍する同シリーズと、『Ghost of Tsushima』の作風はまるで何もかもが違うように感じられるかもしれないが、(たとえそれが本人にとっての必然だったとしても)自らの罪に伴う代償を容赦なく描いているという点では両作は共通している。そして、『Ghost of Tsushima』本編に加え、「過去の罪」との対峙まで描いた今回のDLCは、ある意味では罪という題材と向き合い続けてきたSucker Punch Productionsにとっての一つの集大成であると言えるのではないだろうか。

 『Ghost of Tsushima Director’s Cut』で追加された壱岐島での物語は、単なる「DLC」という言葉で片付けるには惜しいほどに、本作の持つ世界観の奥深さを示すことに成功している。今年も様々な優れたストーリーテリングを持つ作品がリリースされてきたが、筆者個人としては、それらにも引けを取らないほど本作の物語が強く印象に残っている。もし(特に本編をプレイ済のプレイヤーで)本作をスルーしているのであれば、ホリデーシーズンを共に過ごすタイトルとして、ぜひ手に取っていただきたい。

©2021 Sony Interactive Entertainment LLC. Ghost of Tsushima is a registered trademark or trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.
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