ベータ版1000万DL超、『Splitgate』のヒットでアリーナシューターは復権へ?
『Call of Duty』、『Battlefield』、『Halo』とFPSのビッグタイトルの新作が揃う、まさにここ数年で最大のFPSイヤーと言っても過言ではない2021年。しかし、現在最も注目を集めているFPSタイトルの一つは、全く無名の、小規模なデベロッパーが手掛けた新たなタイトルである。
2017年にIan Proulx氏が自身が通う大学の卒業プロジェクトとして制作を開始した『Splitgate』は、2019年にPC版の配信を開始し、約2年を経た今年の夏に実施されたコンソール版を含むオープンベータテストで人気が爆発。ベータ版のダウンロード数が1000万を超えるという驚異的な大ヒットを記録し、先日より日本国内でもPlayStation版の配信が開始されるなど、新規タイトルとは思えないほどの快進撃を続けている。
『Splitgate』は『Halo』シリーズに代表されるようなロードアウト固定&アビリティ無しという共通の条件下のもと、プレイヤー同士の純粋な撃ち合いによって勝敗を決するオンライン・アリーナシューターである。(様々なモードを用意しているとはいえ)基本的には王道中の王道であるチームデスマッチをメインとしたシンプルなゲームだ。アビリティの相性や爆弾設置状況や収縮するリング、あるいはキルストリークといった戦況を考慮する必要は無く、とにかくプレイヤーは徹底して相手をキルすることや陣地を守ることに集中すれば良い。もしかしたら『VAROLANT』や『Apex Legends』といった現在のFPSシーンで人気の作品に慣れ親しんでいるプレイヤーからすれば、本作のスタイルはもはやストイックにすら感じられるかもしれない。また、『Halo』や『Quake』といったシリーズに慣れ親しんでいる人からすれば懐かしさを感じることができるだろう。
そんな本作に独自の魅力を与えているのが、本作最大の特徴である「ポータル」の存在である。プレイヤーはいつでも特定の壁に対して2種類のポータルを設置することが可能で、設置したポータル間を自由に行き来したり、ポータル越しに向こう側を確認したり、さらには銃撃することだってできるのだ。FPSにおけるポータルと言えば2007年にValveがリリースした歴史的傑作『Portal』だが、基本的には同作のメカニクスがそのままアリーナシューターに導入されたと考えて良い(ポータルの色も、同作に合わせてしっかり青とオレンジとなっている)。このポータルの存在によって、本作は一般的なアリーナシューターにおける立ち回り自体に大きな変化をもたらしている。
例えば、相手の背後や、あるいは頭上から奇襲を仕掛けるといった戦法は『Splitgate』では極めて容易に実行することが可能だ。また、ポータル越しに射撃できるというメリットを活かし、全体を見渡せる場所に片方のポータルを設置し、もう片方のポータルを閉じた空間に設置することで、安全性を担保しながら(ポータルの)視界に入った相手を撃つというプレイスタイルも有効である。逆に「このままではやられる!」と危険を感じたら目の前にポータルを出して緊急避難することも出来るし、使わない場所に敢えてポータルを出すことで相手を牽制することもできる。よって、プレイヤーは常に「ポータルによって何ができるか/起きるか」を想定しながらアリーナで戦うことになるのである。メカニクス自体は極めてシンプルかつ直感的だが、そこから生まれる(本作でしか通用しないであろう)戦略の幅広さや、プレイヤーの創造力が本作に唯一無二の魅力を与えている。
実は筆者はFPSが得意な方ではなく、自らの実力が結果に直結するアリーナシューターは特に苦手で、『Halo』では1~2キルでマッチを終えることも珍しくないほどの腕前なのだが、そんな自分でも『Splitgate』を非常に楽しく遊ぶことができている。視界に入った相手を素早く追いかけるためにポータルでルートを構築したり、相手の動きを予測してポータルで奇襲を仕掛け、それが機能したときの喜びは格別だ。また、瀕死の状態でなんとか事前に置いておいたポータルへと飛び込んで逃げ切り、追いかけてきた相手の後方にワープしてリベンジを決める興奮や、予想もしなかった角度から飛び込んできたプレイヤーに攻め込まれたときの衝撃は間違いなく本作にしか存在しないものだろう。勝敗が完全にプレイヤーの射撃スキルに依存するわけではないため、アリーナシューターにどこか敷居の高さを感じている人に対しても是非オススメしたい。
また、ポータルの存在の影に隠れがちだが、本作は触っているときの気持ちよさも格別だ。レスポンスが優れているのは勿論のこと、スプリントとホバリングが常時可能であることから(ポータルの存在も相まって)機動力も抜群である。対戦型シューターのリズムと快楽性を考える上で重要となる、相手を倒すまでにかかる時間(通称「キルタイム」)についても、本作は『Call of Duty』ほど短いわけではなく、かといって『Halo』ほど長くはないという絶妙な塩梅に調整され、良い意味でサクっと決着がつくようになっており、常に軽快に撃ち合いを楽しむことができる。銃を撃つときの感触についても実銃を踏まえた重みのあるものではなく、カシャカシャとした軽快で心地良いものとなっており、ゲーム全体がカジュアルな手触りとなっているのだ。この手軽さもまた、『Splitgate』の魅力と言っても良いのではないだろうか。気軽に手に取った人が、何となく心地よく触っている内に、本作の持つ奥深さに気付きのめり込んでいく。筆者を含め、そのような体験をした人が多いからこそ、本作はここまで大きな成功を実現したのかもしれない。