最終章から新たな世界へ。RADWIMPS『SHIN SEKAI "nowhere"』が示す“次世代バーチャルライブ”の可能性

『SHIN SEKAI "nowhere"』が示す“次世代バーチャルライブ”の可能性

 最後に『SHIN SEKAI "nowhere"』は、RADWIMPSの3人が語ったとおり、バーチャルライブの次の可能性を示した最先端のコンテンツだった。バーチャルライブは、コロナ禍中の昨年4月に行われたTravis Scottの『Astronomical』以来、国内外の多くのビッグアーティストが行っており、そのそれぞれにバーチャルライブ体験を更新させる試みが見られた。

 しかし、最近では、欧米を中心にワクチン接種が進んだことでリアルライブ復活の兆しが見えつつある。それだけにコロナ禍中の自粛の反動的なものもあってか、アーティストも心理的にリアルライブが開催可能であれば、そちらを優先したいという気持ちが少なからずあるのだろう。少なくとも海外アーティストによる大掛かりなバーチャルライブの開催数は去年に比べて、減少している。

 そうなってくると多くのアーティストが昨年から模索した、リアルライブでもなく、MVでもない、その中間の存在としてのバーチャルライブが、結局はリアルライブの代替品でしかなかったように思えてしまう感も否めない。

 ただ、近い将来、通信テクノロジーがさらに発展することで、例えば、リアルとバーチャルのハイブリッド形式で開催された場合も、バーチャルはバーチャルならではの演出がリアルタイムで行われるようになるなどすれば、リアルライブよりもバーチャルライブを選ぶというファンが出てくるかもしれない。

 とはいえ、それは少なくとも現段階では難しい。そうなると、バーチャルライブの価値はどこにあるのかと考えた場合、その価値はやはりいつでもどこでもリアルとはまた違ったライブを何度も楽しめるという再現性にあるだろう。

 ライブとMVの中間の存在であるバーチャルライブは、アーカイヴされることでその再現性を発揮し、ファンにとって何度でも楽しめるライブコンテンツになる。加えて、nowhereのように追加アバターが販売されるなど、ライブの付属コンテンツがアップデートされることで、仮にライブの内容やワールド自体は同じであったとしても、これまでの体験に別の要素が加わわった、より何度でも楽しめるコンテンツ化するはずだ。

 特にVARPは、アーティストの要望にオーダーメイドで応えることができるシステムであることから、そのような形でバーチャルライブ体験をアップデートしていくことで、あたかもライブを記録したライブDVDの進化版のような、体験可能な記録メディア的コンテンツとして発展することが考えられるだろう。また、真鍋氏がトークセッションで語った「RADWIMPSの楽曲世界の中をファン自身が主人公となり、旅をしていく」という“ロールプレイングミュージック”のコンセプトは、再現性に加えて更新性を特徴としたこのケースでも十分に機能するはずだ。

 現在の世界的なワクチン摂取状況を考えると、コロナ禍におけるRADWIMPSのバーチャルライブコンテンツとしては、今回の『SHIN SEKAI "nowhere"』は確かに"最終章"なのかもしれない。しかし、それと同時にリアルとバーチャルが共存するであろうアフターコロナにおけるバーチャルライブのあり方や価値など、今後の可能性を示すことまでをも考えられた次世代のバーチャルライブコンテンツだったようにも思えた。そして、それが実はこのコンテンツが持つ最たる先進性だったと感じずにはいられない。

■Jun Fukunaga
音楽、映画を中心にフードや生活雑貨まで幅広く執筆する雑食性フリーランスライター。DJと音楽制作も少々。
Twitter:@LadyCitizen69

©︎SHIN SEKAI

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