日本在住・外国人YouTuberの僕が、新型コロナへの日本政府の対応に思うこと
世界に向けて日本の魅力を発信し続けている英国人YouTuber、クリス・ブロードによる連載『ガイドブックに載っていない日本』。第7回目は、新型コロナウイルス(COVID-19)がYouTuberとしての活動にどう影響したのか、クリスがいま、何を発信したいと考えているのか、そして、日本に住む外国人として政府の対応に感じることなど、赤裸々に語ってもらった。
第0回:外国人YouTuberである僕が「日本人が見落としている日本の魅力」を伝えるためにできること
第1回:外国人YouTuberの僕が、“奇妙ではない”日本のアイデンティティに惹かれた理由
第2回:外国人YouTuberの僕が、東日本大震災翌年に移住した日本で感じた“難しさ”
第3回:東北在住の英国人が、教師を辞めて世界的YouTuberになるまでの話
第4回:ザ・ロックや『ブレイキング・バッド』主人公も反応……世界的YouTuberになった僕の“量より質”な成功体験
第5回:外国人YouTuberの僕から見た、“日本の変わるべき部分”
第6回:外国人YouTuberの僕が“福島のドキュメンタリー”で限界を感じた話
新型コロナウイルスの影響
新型コロナウイルスの影響はYouTube活動にも及び、2020年に予定していた4〜5割ほどの企画がキャンセルとなりました。大きなものでいうと、国内ロードトリップと京都の旅。5月に東北地方でも旅行の自粛要請が出てからは、四国や九州、関西地方での企画も軒並み中止か延期になり、スケジュールに影響が出ました。「観光客のいない京都」は撮ってみたかったモチーフでしたが、残念ながら叶いませんでした。
他の多くの方たちと同じように、私にとっても2020年は“失われた1年”となりました。
ただ、YouTuberの仕事は柔軟性が高いため、新型コロナウイルスが収束するまでは旅動画を減らし、人やビジネスにフォーカスした動画に比重を置く、という方向にシフトすることで、活動を継続することができました。
イギリスにいる家族や友人の中には、新型コロナウイルスの影響で仕事を失った人たちもいます。私の父は航空デザイナーですが、世界的に飛行機での移動が減少したので、今も仕事がありません。そういった人たちがいる中で、私が不平不満をいうのはおこがましいことだと思っています。こんな状況でも仕事を続けられているのは幸せだと感じています。
新型コロナウイルスをテーマにした動画
2020年3月に新型コロナウイルスをテーマにした動画も制作しました。撮影のきっかけは、近所のスーパーマーケットでトイレットペーパーの陳列棚が空になり、自分の生活にもいよいよ影響が出始めたこと。私はこの動画で「今は大変だけど、すぐに状況はよくなるだろう。また日常が戻ってくる」と発言しました。しかし、みなさんもご存知の通り、その直後から事態は悪化の一途を辿りました。
その状況を見て、新型コロナウイルスのエキスパートでもなんでもない、いちYouTuberの自分が無責任な発言をしたと猛省しました。ポジティブでいることは重要ですが、根拠なく状況を楽観視してはいけない。すぐに動画を再編集し、誤解の生じない内容に変更しました。
多くの人に発信する立場として、自分ができることと、できないことの上限を知ることは重要です。海外の視聴者からは、「日本の現状を伝えてほしい」とか、「日本の新型コロナウイルスへの対応はどうなっているのか」といった質問は届きます。「日本旅行をキャンセルすべきか、いつ頃なら旅行にいけそうか」と尋ねられることもあります。
しかし、そういった質問に安易に答えるのも控えています。楽しみにしていた旅行をキャンセルせざる負えなくなり、気落ちしているファンに「問題なく旅行できるようになったら、今回予定していたものより滞在日程を伸ばしてみれば」とか、「日本語を少しでも学んでおくと、旅行の楽しさが格段に増える」といったアドバイスをすることはできますが、新型コロナウイルスの状況については、私が無責任に話していいことではない。
もし私が新型コロナウイルスに罹患したら、その時は実体験を元にした動画を作ります。それ以外では、事態が収束し、再び外国人観光客が迎え入れられるようになってからでしょう。私の仕事は人を笑わせ、一時的でも現実から逃避させることであるということを忘れてはいけないと思っているのです。
辛い時だからこそ、楽しい動画を
辛い現実に立ち向かわない時だからこそ、楽しい動画作りに力を入れています。「現実逃避」というのはネガティブな言葉だと思う人もいると思いますが、私がチャンネルが大切にしていることの一つです。ブラジルの電車の中だろうとイギリスのアパートの中だろうと、スマホやラップトップを開いて「Abroad in Japan」にアクセスすれば、日本の田舎風景にひとっ飛びできる。どうしようもない現実から一時的に解放されるということは、こういったご時世には一際重要だと感じています。
実際、「Abroad in Japan」チャンネルには、過去数ヶ月にわたって「気分転換になった」や「辛い時をのりこえることができた」といった感謝のコメントが数多く届きました。これは私にとって非常にうれしいことです。
気分が晴れる動画が求められていることは、クラウドファンディング「Patreon」の支援者数の急激な増加からも感じることができます。パンデミック前は2600人だったところが、すぐに600人増え、3200人を超えました。これは、私の動画が辛い時期を乗り越えるのに必要だと感じてもらえていることの証明だと受け取っています。
新規支援者の中には、「新型コロナウイルスで外出もできず落ち込んでいたけれど、このチャンネルを見ることで現実逃避できて辛さをどうにか乗り越えられそうだ。是非サポートさせてほしい」とメッセージを送ってくれた人もいました。作ったものが誰かの役に立っているなんて、クリエイター冥利に尽きます。