連載:クリス・ブロードの「ガイドブックに載ってない日本」(第4回)
ザ・ロックや『ブレイキング・バッド』主人公も反応……世界的YouTuberになった僕の“量より質”な成功体験
世界に向けて日本の魅力を発信し続けている英国人YouTuber、クリス・ブロードによる連載『ガイドブックに載っていない日本』。第4回のテーマは、「YouTuber成功期」。YouTuberとして成功したことを感じた瞬間から、動画へのこだわり、日本人YouTuberとの出会いまでを語ってもらった。
第0回:外国人YouTuberである僕が「日本人が見落としている日本の魅力」を伝えるためにできること
第1回:外国人YouTuberの僕が、“奇妙ではない”日本のアイデンティティに惹かれた理由
第2回:外国人YouTuberの僕が、東日本大震災翌年に移住した日本で感じた“難しさ”
第3回:東北在住の英国人が、教師を辞めて世界的YouTuberになるまでの話
チャンネルの成功は人の反応でわかる
最初にYouTuberとしての成功を感じたのは、チャンネル登録者10万人を達成したときです。前回書いた通り、私にとって「10万人」という数字は職業YouTuberの道に踏み出すかどうかの目安でした。活動を始めて2年間で10万人のサブスクライバーを集めることができたら、フルタイムのYouTuberになろうと考えていたのです。
チャンネルの成功を肌で感じ始めたのは、2016年から2017年にかけてのころでした。私は普段、田舎の片隅でYouTube活動をしているため、チャンネル登録者が10万人、もっと言えば100万人を超えても、自分の認知度が上がってきているのか、実感することは滅多にありません。
ところが、東京に出てきたときに、浅草線で渋谷に向かう電車の中で隣に座った外国人観光客が「クリス? 」と声をかけてきたのです。駅を出ると、私の周りには人だかりができました。それまで登録者数200万人という数字を目にしても、スクリーンの向こうにいる200万人を想像したことはありませんでした。しかし、そのときは日頃自分のチャンネルを見てくれている画面の向こうの人たちの存在をはっきりと感じられました。
視聴者の方との交流はよく憶えています。なかでも印象深かったのは、茨城県で出会った日本人女性。電車内で肩を叩かれ、「クリスさんですか? 」と聞かれたので、「そうです」と答えました。すると、彼女は大はしゃぎでピョンピョン飛び跳ね、全身で喜びを表現してくれたのです。おそらく20代の若い女性が電車内という公共の場で、です。そもそも日本の人々は感情を体で大きく表現することが少ないですし、電車内も静かですから、とても印象に残りました。私は田舎でひっそりと動画を作っているので、視聴者の方のそんな反応を想像したことがなかったんです。
“ザ・ロック”からTwitterのリプライも
イギリスでも同様の経験があります。日本食レストランで食事をしていると、店に入ってきた人が私のもとにやってきて、「写真を撮らせてもらってもいいですか? 」と言いました。その人はレストランで食事をしたかったわけではなく、私に会うために店に入ってきたのです。その後も、日本行きの飛行機の中や、空港のトイレで話しかけられることがありました。さすがにこのときは、嬉しい反面、少々怖くなりました(笑)。
またその延長線上で、有名人に自分の存在を知ってもらえたのは嬉しいことでした。例えば、例えば、元プロレスラーで映画プロデューサー/俳優の“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソンはTwitterでリプライを飛ばしてくれましたし、『ブレイキング・バッド』で主人公のウォルター・ホワイトを演じたブライアン・クランストンが「Abroad in Japan」とタイトルコールをしてくれたこともありました。
そして、YouTubeという動画配信プラットフォームから飛び出し、メインストリームのメディアで「Abroad in Japan」が取り上げられたことも、成功のひとつのマイルストーンになりました。「Jアラート」が流行語大賞に選ばれたり、多くのメディアに掲載されたことも成功を実感させてくれたのです。
そんななかでも、やはり道行く人々の反応が成功を知るバロメーターになっていることは変わりがありません。人出の多い渋谷もでもよく呼び止められますが、浅草に行くとその倍は声をかけてもらえます。私は人が好きなのでうれしいですし、それだけ多くの人たちに気にかけてもらえるのはありがたいですね。
YouTuber歴8年で動画は200本ーー“1本入魂”のこだわり
私はYouTuberになって8年間で、動画は200本程度しか作っていません。多くのYouTuberが毎日のように動画をアップしていることを考えると、およそ2週間に1本というペースは少ないと感じられるでしょう。
ただそれは、“量より質”をモットーとしているからです。配信頻度を上げるために動画の質を落としたくないし、また、個々の動画作りを通して新しい技術を学んでいるため、その習得にも時間を使っています。最近の動画ではブルースクリーンとグリーンスクリーンのいい使い方を学びましたし、津波のドキュメンタリーを作ったときはドローンの飛ばし方を学び、先述のグランクラスの動画では、20分という限られた時間で必要なカットを撮影する術を学びました。
これは、動画作りの参考にしているのがイギリスのテレビ番組であることに関係しています。私はYouTuberでありながら、YouTubeで他の人の動画を見ることは少なく、テレビのようなリッチコンテンツを多く視聴しています。そのことが映像の質感の違いにつながっていると思いますし、YouTuberに影響を受けず、オリジナルでフレッシュな視点を維持することができている要因だと考えています。
私のチャンネルのテーマは、教育とエンターテイメントです。常にポジティブな内容になるように気をつけており、そのなかで避けている話題もあります。
それは、政治(Politics)と私生活(Private)、そしてポルノ(Porn)の3つのPです。
「政治」ネタを扱わないのは、自分が取り組むべきジャンルでないと感じているからです。また、私は基本的にオープンな性格ですが、「私生活」はかつてオンラインのストーカー行為に遭った経験があるため、明かしすぎないようにしています。もちろん、そういうことは滅多にないのですが、200万人近くの視聴者がいれば、たまにはそういう人もいるということです。同様の意味で、移動先、滞在先で撮影した動画は、その日のうちに配信しないように心がけたり、滞在先で窓の外の景色を映しすぎないようにもしています。これは、視聴者の方から「風景から、クリスがいまどこにいるのか、どのフロアに滞在しているかさえ特定できるから気を付けた方がいいよ」とアドバイスをもらったことがきっかけでした。
そして当然、過度に性的なコンテンツは扱いません。いわゆる「ラブホテル」のような日本独自の文化について言及することはありますが、人目を引く過激な話題で多くの視聴回数を得ることに関心はありませんし、映像を通じてより有益な情報を発信したいと考えています。