歌広場淳×ミートたけし(川村竜)“ベーシスト格ゲーマー”対談 「全力で煽り合うために」

 大のゲームフリークとして知られ、ゲーマーからの信頼も厚いゴールデンボンバー・歌広場淳による連載「続・格ゲーマーは死ななきゃ安い」。今回は特別編として、7月16日に開催される、有名“おじさん格ゲーマー”による本気の大会「おじリーグ」への出場が決まっている「ミートたけし」こと、作曲家・世界的ベーシストである川村竜との対談を行った。

 同じく、格闘ゲームに全力を注ぐ“ベーシスト”でありながら、実は初対面となった二人。「大会で全力で煽り合うために、お互いを知ろう」という趣旨のもとスタートした対談だが、音楽に対する思いや格ゲーの楽しみ方についても多くの感覚を共有する、濃密な内容となった。(編集部)

ミートたけし(川村竜)

「お互いのことを知らないと“煽り合い”がうまくできない」(歌広場)

歌広場淳:今回は対談を受けていただいてありがとうございます! ベーシスト・川村竜さんとしてはもちろん、ミートたけしさんとしても存じ上げていましたし、僕のこともなんとなく知っていただけていたと思うのですが、これまでなかなかお話しする機会がなくて。ともに「おじリーグ」への出場が決まっていて、僕も一応“ベーシスト”ですから注目のカードになってしまう可能性が高く、そのときにお互いのことを知らないと、大会の華である“煽り合い”がうまくできないので(笑)、ぜひ一度お話ししておきたいと考えてお声がけさせていただきました。

ミートたけし:心遣いありがとうございます(笑)。おっしゃる通り、煽り合いにはリスペクトが必要ですもんね。

歌広場淳:そうなんですよ。少なくとも、必要最低限の礼儀がない人間に煽りはできないんです。実は僕、80年代から多くのアニメ楽曲を手掛けてこられた作曲家・田中公平先生の大ファンで、その田中先生が「信頼できるミュージシャン」として川村さんの名前を挙げていらっしゃったし、またこちらも多くのアニメ主題歌を歌われてきた岩男潤子さんのプロデュース/バンドマスターを川村さんが手掛けていらっしゃることも知っていて。それが格闘ゲーマー「ミートたけし」と同一人物だと知るまでに、けっこう長い時間があったんです。

ミートたけし:それ、関係者によく言われますね(笑)。僕も歌広場さんはテレビでたくさんお見かけしていますし、何より、多くの有名人が格闘ゲームをプレイしているなかで、ズバ抜けて強いことを知っていました。僕は現行の『ストリートファイターV』から格ゲーを始めたのですが、歌広場さんも仲がいいプロゲーマーの立川選手(Burning Core所属)が僕の家で教えてくれているときにいろいろと話を聞いて、「この人はガチだ」「やべえ」と。

歌広場淳:ありがとうございます(笑)。僕は小学校のころ、お店の軒先にあるゲーム機に100円を入れるところから始まったのですが、大人になって、本業もお忙しいなかで、『ストV』から始めるのはスゴいなと思います。どんなきっかけでプレイし始めたんですか?

ミートたけし:僕はゲーム音楽を演奏したり、作らせてもらうことが多くて、これまで“練習”の必要がないRPGやアドベンチャーゲームはプレイできていたのですが、遊べるようになるまでまとまった時間が必要な格闘ゲームは、なかなかプレイするタイミングがなくて。そんななかで、うちの事務所に所属している二人の作曲家のうちのひとりが、いきなり『ストV』とPlayStation4を買ってきたんですよ。三人とも初心者で、手探りで対戦を始めてみたら、僕が当時、「自分に似てるな」と思って選んだバーディが強すぎて、二人に圧勝しちゃったんですよね。それで「俺は格ゲーの申し子かもしれない」と調子に乗って、「うちのチームのボーナス、『ストV』のLP(※リーグポイント。ネット対戦のランクマッチで勝利することで獲得できる)順で決めようぜ」と言ってしまって(笑)。

歌広場淳:はははは(笑)。

ミートたけし:たぶんオチはお分かりだと思うんですけど、追加で「最下位のやつはメシ代を毎回出して、領収書を切るのも禁止な」なんて言っていたら、思いのほか二人がやる気を出してしまって、僕は全然練習をしなかったから、1年くらい、領収書なしでそいつらにおごり続けるという地獄の毎日が始まって(笑)。そこから『ストV』のアップデートで、僕が好きな『ファイナルファイト』の主人公・コーディが追加されたこともあって、ちゃんとやってみようと。そんななかで、格ゲーに詳しいアシスタントの子が「格ゲーはオフライン対戦会で練習しないと強くならないですよ」と言うので、中野の「Red Bull Gaming Sphere Tokyo」に連れて行ってもらったんです。そうしたら、メガネをかけた痩せたお兄ちゃんが、「“ミートたけし”ってプレイヤーネーム、マジで言ってるんですか? ヤバイっすね」と話しかけてきて。

歌広場淳:あー、もう誰かわかるなぁ(笑)。マゴ選手(TOPANGA&eスポーツチーム「魚群」所属のプロゲーマー。“2D神”の異名を取る人気者)ですね?

ミートたけし:そう、人との距離の詰め方がぶっ壊れているマゴさんです(笑)。言わずと知れた超人気プレイヤーで、アシスタントは大興奮だったんですが、僕は格ゲー界隈のことを本当に知らなかったので、「なんだこいつは!?」と衝撃を受けました。でもそのとき、マゴさんは川村竜としての僕のことなんてまったく知らなかったのに、本当に丁寧に教えてくれて。そこで意気投合して連絡先も交換して、マゴさんも僕のことを調べてみたら、好きなアニメの楽曲をいろいろ手掛けているということもあって興味を持ってくれて。そんななかで、僕も『ストV』にのめり込んでいきました。

「武道館でもアリーナでもなく、ゲームの大会で初めて緊張した」(ミートたけし)

歌広場淳:かなり濃いきっかけですね。ちなみに、もともと『ストV』を買ってきた作曲家の方は、いまもプレイを続けてらっしゃいますか?

ミートたけし:いまはもうやってないです(笑)。

歌広場淳:それが普通だと思うんですよね。格ゲーは初心者同士で遊んでいるときは楽しいのですが、どこかで勝てなくなる瞬間があり、普通はそこでやめてしまう。もともと格ゲーが好きでプレイし続けてきた僕と違って、覚えることが多いなかで、音楽の仕事と両立しながらここまで強くなるというのは、本当にスゴいなと思います。

ミートたけし:誤解を恐れずに言うと、僕、そもそもあまり音楽が好きではないんですよ(笑)。

歌広場淳:おもしろい! 実は僕もそういう感覚を持っていて、ヴィジュアル系が好きだと言ったときに「音が薄い」という謎の批判をされることがあったり、「音楽を妄信している人のせいで、俺は傷ついているからね!」という気持ちがあるというか。

ミートたけし:僕も考えとしては近くて、「自分には音楽しかない」という人とは絶対に仲良くなれなくて。それこそ、田中公平さんはこういう僕でも受け入れてくれて、本当にありがたいと思うのですが、僕もアシスタントやアドバイスを求めてくる人には、「自分の人生の上に音楽を置くのはいいけど、音楽の上に自分の人生を置くな」と言っています。音楽は自分を表現するアウトプットのチャンネルのひとつでしかなくて、他に表現の手段があればいつでもやめられるというか。もっとも、最近は「川村竜」より「ミートたけし」というキャラクターの方が先走りすぎて、マネージャーは泣いていますが(笑)。

歌広場淳:わかります。僕もゴールデンボンバーという特殊なバンドをやっているがゆえに、音楽の力だけを盲信することに早い段階で疑問を持つことができて。例えば、ライブが音楽を多くの人に同時に体験してもらうものだとしたときに、幕を下ろして演奏だけを聴かせれば人は感動するのか。ゴールデンボンバーは鬼龍院翔という天才がいて、楽曲のクオリティが高いということはもちろん大きなポイントなのですが、そこにパフォーマンスの面白さがあって世に広まったと思うし、音楽だけではこれだけ多くの人を魅了できなかったと思うんです。

 ただ同時に、僕は嘘なしで、すべてのミュージシャンを心から尊敬しています。それは、その人たちがずっと自分に鍛錬を課してきたことがわかるから。楽器の練習、音楽理論の勉強、それをしていないと得られない能力があって、それが本当に素晴らしい。ゴールデンボンバーはエアーバンドで、楽器の練習をしていないから、そのぶん、他の何かを鍛錬することが僕らの表現活動なんだということに気付いて、僕はゲームに全振りしたという(笑)。

ミートたけし:素晴らしいですね。このタイミングで言うと媚び媚びに見えちゃうかもしれませんが、僕はゴールデンボンバーが本当に好きなんですよ。でも、「エアーバンド」ということで、失礼ながら、おそらくバカにしてくるミュージシャンもいましたよね。

歌広場淳:全然いました。

ミートたけし:そういう人たちのほうが愚かだと思っていて。これも誤解を恐れず言いますが、僕は「売れた音楽はいい音楽だ」と思っているんです。こう言うと、「川村竜は売れ線の音楽しか作らないんだ」というふうに捉える人がいて、正直に言って、そういうミュージシャンは退場してほしいと思ってしまう。そうやって反発する人は、裏を返すと「いい音楽をやっていれば、いつか必ず芽が出る」とか「結果として売れる」みたいな考え方をしていて、それは音楽に頼りすぎだというか、怠慢じゃないかと。自分が信じている音楽とか、自分が積み重ねてきたものとか、そういうものが表現の核にあるのは当たり前で、それをどういう見せ方をするかとか、どう伝えるかとか、パフォーマンスや演出まで全て考えて、初めて「人に伝える」ということでしょう。だから、僕にとっては音楽以外のことを考える時間の方が大事だし、好きなんです。

歌広場淳:わかります……! この時点で、ミートさんは「本当のことを言う(一定の人たちにとって)嫌な人」であっても、「悪い人」ではないということがわかりました(笑)。

ミートたけし:はははは(笑)。少し言葉は強かったかもしれませんが、自分が出せて、かつ人に楽しんでもらえるなら何でもいいと思っています。格ゲーの魅力で言うと、はっきりとした勝ち負けがある、というのが音楽との違いですよね。

歌広場淳:忘れていましたけど、確かにそうですね。音楽は仮に評価されなくても、ひとりでもその楽曲に救われたという人がいたら「勝ち」にできるかもしれない。

ミートたけし:そうなんですよ。「いい曲なのに伝わらなかった」とか、ボヤッとした結論にできたり。でも格ゲーは、負けは負け。それがすごくいいなと思うんです。例えば歌広場さんは、ステージで緊張されますか?

歌広場淳:最初のころはすごく緊張しましたが、いまはほとんどしなくなりましたね。

ミートたけし:僕、演奏で緊張したことがないんです。アリーナでも武道館でも本当にまったく緊張しなくて、いろいろな人に「どうすれば緊張を克服できるか」と聞かれてきたんですけど、「自信がないだけじゃない?」みたいな、すごい嫌な返しをしていて(笑)。でも、格ゲーで初めて30人くらいの小さな大会に出たとき、めちゃくちゃ手が震えたんですね。それまで緊張したことがなかったから、本気で何かの病気かと思ってしまったくらいで。

歌広場淳:わかります!

ミートたけし:とにかくパニックになりながらも、それがすごく新鮮な体験だったし、本当に刺激的で。アシスタントの子に「ごめん、緊張ってどうにもならないね」と謝りました(笑)。理由を分析すると、もちろん自信がない、経験がないということもあると思うのですが、何より「負けたくない」ということが一番なのかなと。ランクマッチをやっていても、冷静にプレイしているときは勝てるのに、絶対に勝ちたい相手がくると、めちゃくちゃな動きになるんですよね。感情が洗濯機のようになって(笑)。

歌広場淳:なるほど、ミートさんがここにきて格ゲーにハマったのは、これまでの表現活動に“誰かのため”という要素があったところが、100%自分のための戦いだから、ということもあるのかもしれないですね。

ミートたけし:そうかも! こういう仕事をしている人はみんなそうだと思うんですけど、僕は承認欲求お化けで、ただ人が喜ぶことで満たされるタイプだったから、エンタメに向いていると自覚していたんです。でもおっしゃる通り、ゲームに関しては初めて純粋に、自分のためだけにやっているのかもしれないです。きっとそうですね。

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