歌広場淳×ミートたけし（川村竜）“ベーシスト格ゲーマー”対談　「全力で煽り合うために」

「毒を知らない人生って面白い？って思うんです」（歌広場）

歌広場淳：音楽の練習は、「自分のため」の延長線上に「人のため」があると思うんです。でも、格闘ゲームの練習は違って、めちゃくちゃ地味な作業を繰り返していると、ファンの人たちも「頑張ってるね」「スゴいね」と言ってくれるんですけど、単純に練習すれば勝てて気持ちいいし、負けたら死ぬほど悔しいからなんですよね。

ミートたけし：そう、僕も「おじリーグ」に出ることになって初めて、これまで苦痛でしかなかったトレモ（トレーニングモード）にこもっていますから。おっさんたちにあれだけ煽られて、これで負けたら耐えられないですから、やるしかない。

歌広場淳：素晴らしい。僕は楽器を弾かないエアーベーシストなので、ゲームをする時間を捻出しやすいと思うのですが、ミートさんは実際に楽器を弾いていて……というか、世界的に有名なベーシストであって、具体的にどうやってゲームをする時間を作っているのかも気になります。

ミートたけし：音楽の時間は、すべて犠牲にしています（笑）。真面目な話をすると、作曲に関しても演奏に関しても、僕はアウトプットやその練習より、インプットの時間の方が大事だと思っているんです。もちろん、勉強しなければいけないこともありますが、うまいものを食べたり友達と遊んだり、映画を観たり、それこそゲームをしたり、音楽以外のもので刺激された感覚を音楽として表現する、というのはずっと続けてきたことで。これは個人差があると思いますが、あくまで僕の場合は、キーボードやピアノの前にずっと座っていることに意味はないんです。もちろん、「今月中にあと40曲つくってください」というときは実際問題、やらないと片付かないけれど、そうでないときは音楽に割く時間はそんなに多くない。何をしていても、頭のなかでは音楽を組み立てていて、いざキーボードを触るときは、それを吐き出すだけだというか。

歌広場淳：その意味では、これまでベーシストとしてリスペクトを集めてきたところから、「ミートたけし」以降のまったく違う体験で、新たな創作が生まれるかもしれない。

ミートたけし：おっしゃる通りで、めちゃくちゃ嫌な言い方になって申し訳ないのですが、僕はベースを意識的に練習したことがないし、先ほど申し上げたように緊張したこともなくて、格ゲーで初めて、“できない人の気持ち”が分かったんですよ。格ゲープレイヤーが当たり前にやっていることが何一つわからないし、そういうことが音楽にフィードバックしていたというか。この2年間、音楽業界で「川村は優しくなった」と本当に言われました（笑）。

歌広場淳：そうした気づきでクリエイターとして尖った部分が失われる可能性もあると思いますし、無邪気にいいことだと言っていいかはわかりませんが、豊かになったのは間違いないですね。

ミートたけし：それは間違いないです。牙を抜かれているかもしれませんが（笑）。

歌広場淳：わからないことがわかるようになってくると、世界が広がりますよね。ただそのぶん、混乱するというか、難しくなるところもあって、目標の立て方も徐々に変わってくるというか。いまは「おじリーグ」に向けて、ということはあると思いますが、格ゲーをやっていく上でのモチベーションは、どう保っていますか？

ミートたけし：ウメさん（格闘ゲーム界のレジェンド、梅原大吾）が言っていることと被ってしまいますが、昨日の自分より上手くならなければ、と考えています。

歌広場淳：ミュージシャンとしてやってこなかったことを！（笑）

ミートたけし：本当にそうです（笑）。音楽サイドの人から見ると、「最近、川村はゲームばかりやって堕落している」という感じかもしれませんが、「音楽だけやっていたら辿り着けないところに、俺は行くぜ！」と本気で考えていますね。

歌広場淳：これまで、音楽業界では“ギフト勢”（才能や環境などに恵まれた人）だったのが、格ゲーでチャレンジャー側に回ったとき、周りの人に優しくなれたり、表現の幅が広がったり、というのはあらためて素晴らしいことですね。それでは、格ゲーをやっていてミートさんが一番楽しいのは、どんな瞬間ですか？

ミートたけし：実は、煽り合いのプロレスをしているときなんじゃないかと思って。もちろん、試合で勝てば最高に楽しいのですが、僕にとって格ゲーは、初めて“友だち”ができたジャンルかもしれなくて。もちろん音楽業界にも仲間はいるけれど、休日に一緒に遊ぶようなことはなかった。それが、いまは僕の家に常に格ゲーマーの誰かが遊びにきている状況で、彼らと煽り合いながらプレイするのがめちゃくちゃ楽しいんですよ。最初に出会ったのが、抜群に煽りがうまいマゴさんで、そこから多くのプロゲーマーを紹介してもらって。はっきり言って、ミュージシャンより強烈な人が多いじゃないですか。もっとも、煽り耐性がない人も当然いて、そういう人を間違えて煽ってしまったときには、全力で土下座しますが（笑）。

歌広場淳：すごく共感します。僕も、格闘ゲームの本当の素晴らしさは、コミュニケーションにあると思っているんです。言葉でやりとりしなくても、自分がやりたいことをプレイで相手に表現して、相手がそれに対応する、というコミュニケーションが楽しくて。

ミートたけし：あとは、「理屈抜きに楽しいと思える」というのが最高だと思うんです。例えば、僕は音楽についても「ベースがああだった」「サビがどうだった」と、理屈で評価するのが嫌いで。

歌広場淳：なるほど、知識に依存して「いいものだ」と思ってしまっているだけかもしれない。

ミートたけし：そうなんです。その点、例えばライブ配信でなんとなく『ストV』の曲に合わせてベースを弾いたときに、「音楽のことはよくわからないけど、めちゃくちゃ楽しかった！」と言ってもらえると、本当に嬉しいというか。自分がこれまで培ってきたものを、説明なしにどれだけ伝えられるのか――という場所として、配信はすごくやりがいがありますね。

歌広場淳：さて、音楽業界でどれだけ立場があるとか、それこそ“理屈”の部分がまったく通用せず、負ければ地獄が待っている「おじリーグ」の開催が迫っていますが、意気込みはどうですか？

ミートたけし：保険をかけるわけでもなく、真面目に自分が一番弱いと思うんです。上級者にもちょこちょこ勝ててしまうこともあるんですが、真剣にプレイするようになって、きちんと勝てた試合と、まぐれ勝ちの差もわかるようになって。言いたくないけれど、「おじリーグ」に参加するような、往年のトッププレイヤーとはやっぱり差がある。でも、「おじリーグ」で問われるのは技術や自信のありなしではなくて、「こんなおっさんたちに舐められてたまるか」という殺意だと思うんですよ（笑）。その気持ちを本番まで持ち続けて、どれだけの密度でぶつけられるかだと思っています。

歌広場淳：いいですね！　実力の差があったとしても、試合の前はビッグマウスであるべきだ……というのは、いまの時代に合っていないのかもしれないけれど、「おじリーグ」ではそれがしっかりエンタメになっていて、これまでまったく別世界にいた僕のファンの方たちも前回、ちゃんと楽しんでくれたんですよ。

ミートたけし：あの歌広場淳が死ぬほど煽られるわけですから、最初は「うっ」ってなりますよね（笑）。

歌広場淳：明らかに「毒」ですからね。でも、毒を知らない人生って面白い？って思うんです。いくら苦しくても、地獄に足を踏み入れると自分で決めた人生の方が、絶対に面白い。だから僕はゴールデンボンバーになった、とも言えます。

ミートたけし：最高ですね。いや、失礼かもしれませんが、この1時間で歌広場さんのことがそうとうわかった気がします。これは、本番で遠慮なく煽れるなと（笑）。

歌広場淳：僕も同じです。「おじリーグ」はドベになったら人間扱いされず、リベンジの機会もしばらく奪われてしまいますが、ミートさんの場合、マネージャーさんは喜ぶかもしれませんよ？（笑）

ミートたけし：言ってくれますね。万が一ドベになったら、ガソリンを撒いて会場ごと燃やしてやりますよ！（笑）

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■ミートたけしの「太くてニューゲーム」（Mildom）
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