VRゲーム・MMORPGの視点からみた、Porter Robinson主催フェス『Secret Sky』の脅威的なすごさ

VR・MMOの視点からみた『Secret Sky』フェス

ビデオゲームにおけるコミュニケーションの在り方を応用した『Secret Sky』

 今回の『Secret Sky』の「人々がアバターとなって集まり、一つの架空の空間を共有して繋がっていく」という試みは、オンラインゲームにおけるコミュニケーションの在り方を音楽体験に応用したものであると考えることができるだろう。

 実際に、ポーター・ロビンソンは本イベントに先駆けて、The Game Awardsの主催者として知られるゲームジャーナリストのGeoff Keighley氏をこの空間に招待しており、このイベントに込めた想いや、インスピレーションの源となったゲーム作品について語っている。

 バーチャル空間でのビジュアル表現がメインとなっていた昨年と比較し、より人々がリアルなフェスティバルを求めているような空気を感じ取った彼は、今回のバーチャル・ワールドを美しい自然で彩られた明るい場所にすることを決め、まるでMMOのように人々が集まって楽しめるような空間を作ることにしたという。そこでGeoff氏が『風ノ旅ビト』の名前を出すと、ポーターはまさに同作が彼にとって極めて特別な作品であり、強い影響を受けていることを語り始めた。

 『Secret Sky』ではその場で偶然出会ったアバターと近づいたりジャンプしたりしてコミュニケーションを楽しむことができたが、これはまさに『風ノ旅ビト』のオンラインプレイにおける他者との偶発的で、緩い繋がりという在り方に近いものである。ワールドの中でこのようなコミュニケーションを体験することで、表現自体はシンプルでありながらも、しっかりと「他者の存在」を実感することができるのだ。

 実のところ、様々なバーチャル・ライブを体験し、バーチャルならではの革新的な映像表現を目の当たりにしたとしても、「他者の不在」に寂しさを感じてしまうという例は少なくない。どれだけ技術が発達しても、現時点ではリアルを完全に置き換えることが出来ないのが正直なところである。だからこそ、遥か以前よりインターネット上でバーチャルな人々の繋がりを構築してきたビデオゲームにはこの課題を解決するためのヒントが数多く眠っているというわけだ。前述のVRにおいても、ポーター自身、様々なインタビューでVRカルチャーについて言及しており、まさに『VRChat』における臨場感や没入感を例に、そのコミュニケーションの在り方に強い可能性を感じていると語っており(*1)、今回の『Secret Sky』でOculus社とのコラボレーションが実現したのは、もはや必然的であると言えるだろう。

 筆者個人として興味深かったのは、Geoff氏との会話において、ポーターがバーチャル・ライブにおける、コンサート以外の一見すると無駄なアクティビティの重要性について語っていたことである。彼はかつて自身が遊んでいたMMORPG『City of heroes』を例に挙げ、同作内のナイトクラブを楽しんでいた際、施設に併設されていた、特に意味があるわけではないアクティビティを何時間も遊んでいた事を振り返りながら、そのような「目的とは関係ないけど、なんとなくできること」があることが大切なのだと指摘する。だからこそ『Secret Sky』には、「音楽を楽しむ」という目的だけを考えれば不要にも思える4つものエリアが存在しているのだ。

 これもリアルのフェスティバルを思い出せばすぐに理解できるだろう。フェスティバルに参加する場合、朝から晩まで全く同じ場所に居続けるというのは恐らく稀なケースであり、多くの場合はとりあえず会場を歩き回ってみたり、出展されたブースを何となく巡ったり、自分にとってのお気に入りの場所を探してみたりするだろう。そしてその間もずっと周りには誰かが存在していて、ステージ上では音楽が流れている。その「能動性」こそが体験をより特別なものにするのだ。思い返せば、あの『Astronomical』においても、あの映像を単に鑑賞するだけでは体験として不十分で、参加者が『フォートナイト』のプレイヤーとして、ある程度能動的に動くことができるという部分が、あのイベントをより特別なものにしていた。

 筆者個人としては現時点でのバーチャル・イベントの最高峰と位置付けられる『Astronomical』に匹敵するインパクトを感じた今回の『Secret Sky』だったが、両者が共にビデオゲームの存在無くしては成立しないレベルの企画であることを踏まえると、むしろ当然の結果であると言えるのかもしれない。何故なら、両者共にただライブ映像を配信するだけでも、バーチャルならではの映像表現を取り入れるだけでも、決してリアルの代替には成り得ないことを前提とした上で、「コミュニケーション」や「能動性」といった決定的に不足している要素をゲームからの影響を取り入れることで補っているからである。

 自らヘッドライナーを務めたポーター・ロビンソンのパフォーマンスによって大団円を迎えた『Secret Sky』は、自身が主催する「リアル」な音楽フェスティバルである『Second Sky Music Festival』の告知(2021年9月)で幕を閉じた。スクリーンに映し出された過去の同フェスティバルを楽しむ観客やアーティストの映像の数々は、やはり今回の『Secret Sky』も決してリアルに取って代わる存在ではないことを自覚しているように感じさせる。だが、一方で同じ空間を世界中の人々と共有し、繋がることができる場所はリアルには存在しない。そして、だからこそ実現できる革新的なアイディアが、きっとポーター自身の中にはまだまだ存在することだろう。だからこそ、パンデミックが明ける日が来たとしても、是非『Secret Sky』という場所が続くことを切に望みたい。

■ノイ村
主に海外のポップ/ダンスミュージックを好み、SNSやブログなどでのシーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始。最近では趣味が興じてビデオゲームについても執筆を行っている。普段は一般企業に勤務。Twitter : @neu_mura

〈Source〉
*1 https://www.gamesradar.com/dj-porter-robinson-on-the-future-of-virtual-concerts-from-clubbing-in-vr-chat-to-browser-based-live-music/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる