buzzG×柴那典が語り合う「歌詞表現が美しいボーカロイド楽曲」

buzzG×柴那典が語るボカロの歌詞表現

時代とともに進化していくボカロ曲の歌詞

――最新の楽曲として、KEIさんの「デラシネ / KEI feat.小春六花」も挙がっています。

buzzG:「デラシネ」はフランス語で「根なし草」という意味で、全体として自分の居場所がないということを歌っているのですが、居場所がないということはつまりそれはどこにでも行ける自由があるということだ、ということが表現されています。本来ネガティブに思えてしまうことを「自由なんだ」と言えることが素敵だなと。

柴:僕はbuzzGさんのリストをもらって初めて聴いたのですが、本当にいい曲ですね。ゼロ年代末は同じモチーフでも閉塞感につながっていましたが、時代の変化を感じさせられるというか。

buzzG:そうですね。弾き出されて居場所がない……という状況を描くとして、ボカロをやり始めた当時の自分だったら、どうやっても前向きな表現はできなかったと思います。


――メジャーシーンでもブレイク中のクリエイターとしては、柴さんがn-bunaさんの「ウミユリ海底譚」を挙げています。

柴:n-bunaさんはここ数年のシーンの動きのなかで最重要人物のひとりで、どの曲にしようか迷ったのですが、シンプルに代表曲と言える一曲を選びました。ヨルシカの楽曲に顕著に出ているのですが、歌詞を見れば文学的な素養が異常に高いことがすぐにわかりますね。俳句や詩歌、小説の引用をきちんとわかるように入れていたり。

buzzG:「ヒッチコック」のように映画監督の名を冠した楽曲もあるくらい映画もすごくお好きだと思いますし、文化的な香りがしますね。

柴:そうなんです。n-bunaさんも物語的な楽曲を作るクリエイターですが、しかしそれ以上に、本人が何を切ないと思い、何を愛おしいと思うか、というエモーションの部分がコアになっていると思います。じんさんの「チルドレンレコード」もそうですが、やはり「キャラクターを遊ばせるための物語」というより、「核心を伝えるための物語」だというか。「ウミユリ海底譚」はファンタジックな描写をしてながら、深読みしなくてもメッセージが伝わってきます。

buzzG:n-bunaさんが美しいと思っている大事なものが、ダイレクトに伝わってくる感じがしますね。

柴:ヨルシカの楽曲もそうで、歌詞に山ほどの仕掛けと引用があり、謎を紐解くような楽しさがある一方で、それを一切知らなくても伝わるエモーションがある。すごい作家だと思います。

 じんさん、n-bunaさん、てにをはさんと並べて考えると、時代の変化がよくわかりますね。単純に「進化」ということではなく、それぞれに素晴らしいのですが、その時代に合わせた表現がきちんとされているというか。

buzzG:そうですね。「ヴィラン」が象徴的ですが、時代に対するひとつの答えを曲にしている、という感じがします。

柴:とにかく、特に2019年以降のボカロシーンの拡大、充実ぶりは本当にすごい。2020年はYOASOBIが音楽シーンを席巻し、2021年現在でもっとも聴かれている楽曲の一つにAdoさんの「うっせぇわ」(syudou)があって。それぞれに歌詞表現という意味でも美しさ、際立った個性があり、象徴的な楽曲がいくつかあるだけでなく、そこから掘っていけば山ほどいい作品に出会えますからね。

buzzG:近年のムーブメントになる曲にボーカロイド文化の土台があるということに10年以上前からいた身としてはあらためて驚いています。すごいですね。

柴:10年前は、メジャーシーンとボカロシーンはカウンターの関係性があり、ボカロPがメジャーデビューすることに、ファンの間でもモヤモヤがあったりしました。いまはコンビニでも、紅白歌合戦でもボカロ曲が流れるし、両方がフラットに聴かれていて。その多様性のなかで、歌詞を味わう楽しさも大きくなっています。

――「ボカコレ2021春」の開催を記念する対談でしたが、これをきっかけにボーカロイド楽曲にあらためて、あるいは初めてじっくり触れる人も多いと思いますし、作り手になろうという人も出てくると思います。伝えたいメッセージがあれば聞かせてください。

buzzG:あまり歌詞を気にせず、音として聴いている人も多いと思いますが、これを機に、歌詞や内容に目を向けていただけるとうれしいですね。僕もある意味作詞をするために曲を書いている、というような側面もあります。日本語の歌詞って一人称だけでも何種類もあったり非常に自由度が高いうえに「わびさび」みたいな趣もあったりして。書いているときは自分自身の中に深く深く潜水するイメージで息が続かなくてめちゃくちゃ苦しい反面、ものすごく面白いんですよ。さらにボカロ曲は売れる曲を書かなきゃいけないわけでもないので、文化の中にある様々な「幅」が知れてとても面白いです。今回の対談のように、ボカロ曲には内容を読み解いて、掘り下げていく楽しさもあるので、ぜひ考察して楽しんでほしいです。


柴:buzzGさんがデビューした当時は、バンドからボーカロイドへ、というクリエイターも多かったのですが、いまは「ボーカロイドを聴いて、ボーカロイドを始める」という人が多くなっていると思います。より新しいことができると思いますし、すべてをひっくり返すような作品が出てくる可能性があって、そうやって時代が変わるのをみんなで楽しみにしたいですよね。例えば、syudouさんが「うっせぇわ」を書いたとき、社会現象になることなんて考えていなかったと思います。僕のように、あとからもっともらしい理屈をつけてヒットの要因を語る人はたくさんいますが、そんなことより、歌うことができない素晴らしい作家が歌という表現を手にすることができるツールであるということが、ボカロが最初から持っている大きな可能性であって。この10年の歌詞表現の多様性、その広がりを考えると、ボーカロイドシーンはまだまだ新しい文学としても発展する余地があると思うので、新たな名作の誕生を楽しみにしたいです。

The VOCALOID Collection~2021 Spring~


開催日時 :2021年4月24日(土)~25日(日)
開催場所 :ニコニコTOPページなどのネットプラットフォームほか、リアル会場でも開催予定
主催 :株式会社ドワンゴ
協賛 :東武トップツアーズ株式会社
ボカコレステーション:シアー株式会社
番組協賛
協力 :株式会社インクストゥエンター、株式会社インターネット、
NHN PlayArt株式会社(#コンパス)、ガイノイド、
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、
JNCA(一般社団法人 日本ネットクリエイター協会)、
株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ、株式会社NexTone、
VOCALOMAKETS、株式会社AHS、株式会社マクアケ、ヤマハ株式会社
メディアパートナー :InterFM897、JFN、MTV、Twitter Japan
公式サイト : https://vocaloid-collection.jp/ 
公式Twitter : https://twitter.com/the_voca_colle

The VOCALOID Collection LIVE

有名ボカロPやボカロ楽曲ゆかりのアーティスト/クリエイターがジャンルの垣根を越えて大集結し、無限に広がりつながっていく「ボカロ文化」を体現するスペシャルライブ。

開催日時:■2021年4月25日(日)開場 14:00、開演 15:00 終演 19:00 予定
会場 :幕張メッセ ホール4 (千葉市美浜区中瀬2-1)
料金 :
■ネット会場チケット〈Go To イベント対象〉
・一般チケット:¥3,200(税込)(割引後価格)
※Go To イベント対象のため、割引価格でご購入できます。
販売期間:2021年4月6日(火)~5月23日(日)
タイムシフト視聴可能
視聴可能期間:2021年4月25日(日)~5月24日(月)
■リアル会場チケット
・S席チケット:¥6,800(税込)
・一般チケット:¥5,800(税込)
・ペア割チケット:¥10,500(税込)
※一般チケット・ペア割チケットのみ、
中高生は1人1,000円割引(中高生エリアへのご案内となります)
出演者(50音順):愛川こずえ、足太ぺんた、アナタシア、Ayasa、+α/あるふぁきゅん。、WOOMA、ATY、菊池亮太(アノアタリ)、Capital Rhythm、SHARE LOCK HOMES、SHiN、八王子P、ピノキオピー、みきとP@アコースティック feat.ねんね、ヤスタツ、大和、りりり、わかざえもん ほか
▼チケットの購入はこちら: https://vocaloid-collection.jp/live/

※「VOCALOID(ボーカロイド)」ならびに「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。

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