「RECORD MUSIC VIDEO」仕掛け人が語る “レコード針を落とさないと分からない体験”の妙

「RECORD MUSIC VIDEO」の裏側に迫る

「みんなで同じ場所の空気感を共有している感覚は、レコードプレイヤー特有」

――曲はこの企画に合わせてつくったわけじゃないんですよね。

満永:曲は先にあって、たまたま今回の楽曲と親和性が高かったんです。これは、レコードのことを知ってまだ3年くらいの自分が考えた勝手な解釈なんですけど、レコードの針って同じところをぐるぐる回って通っているように見えるんですけど、まったく同じところではなく、少しずつ真ん中(=本質)に近づいていくという、ロマンティックなことをやっているなと思っていて。これ自体、「komorebi」が表現したかった”繰り返す日常”だったり、“音楽の真ん中で二人が出会う”みたいなことなのかなと、一人でエモーショナルな気持ちになっていました。

――レコード自体、毎回同じ音が聴こえるようで、天気や季節、湿度、盤や針の状態で音が変わったりするので、その考え方は非常に面白いと思いました。盤も映像も、何度も再生することに意味があるという。

満永:そこまで感じてもらえたら、こんなに嬉しいことはないです。体験でいえば、真上から見ることで意味を持つMVにもなっているので「囲む体験」が生まれることも良いなと思いました。レコードプレイヤーを囲んで、みんながスマートフォンを置いてのぞき込むことにも価値があるという。

――レコードとプレイヤーというモノが持つ“場の引力”が最大限に活かされるものにもなっていると。

満永:そうですね。その引力を強めるために、BUDDHA.INCの山田(裕太郎)くんと神崎(峰人)くんがかなり工夫してくれていて、“向きを規定しない映像”になっているんです。途中で正面が変わる演出もあるので、囲んでみていても反対や横という概念がなくなる瞬間があるので、360度の動画体験としても面白いものになっているかなと。

アナログとデジタルを溶かしていく体験づくりを

――そもそも満永さんは、なぜ「アナログとテクノロジーを掛け合わせる」ことに取り組んでいるのでしょう。

満永:そこに課題意識を持っているから、というのが第一ですね。今回のコロナ禍において、その課題をより強く感じたことも、個人的には大きいです。当たり前だったリアルの場所だけで完結するイベントがどんどんなくなって、オンライン系のコンテンツは増えていますが、そこに求める没入感についてはまだみんな正解を見つけられていないですから。

 今回の施策を通じて改めて思ったのですが、「デジタル」の対義語は「リアル」ではなく「フィジカル」だなと。デジタルじゃ絶対できないところを追求していった先にあるのは、「触れる」「手元に残る」という要素だったりして、それって「リアル」ではなく「フィジカル」なんですよ。自分がお手伝いさせていただいた施策でいえば、劇団ノーミーツさんの第一回公演「門外不出モラトリアム」でのリモートフライヤー企画などが当てはまるかもしれません。ネットプリントの番号だけを公開しておいて、本公演前に観客のみなさんがコンビニでフライヤーをプリントアウトして自宅に飾ったり、大切に保管しておくことで、デジタルの体験だけどフィジカルな思い出が残るんです。

 我々は関わっていませんが、aikoさんがオンラインライブのあとに、会場で飛ばした銀テープをチケット購入者に送ったりするのも、ファン心理や体験を重要視している良い施策だなと思います。

――振り返ったときに所有物として手元にあるからこそ、思い出せるし特別なものになる。

満永:そうなんですよね。デジタルとリアルを繋ぐみたいな発想のもと、リアルな場所でやったことをデジタルに乗っければいいのか、といえばそうではなくて。たとえリアルな場所だけで完結する体験だとしても、手元に残るものがなければ、満足度が下がってしまうと思いますし、「だったら配信見るだけでいいじゃん」となりかねない。このあたりの感覚は、自分がエンタメに関わるうえで、コロナ禍が過ぎ去っても絶対忘れないようにしようと胸に刻みました。

――お話を聞いていて、「フィジカルな体験を大事にする」という理念がHYTEKや「RECORD MUSIC VIDEO」に通底している、ということが非常によくわかりました。

満永:家に飾ってテンションが上がるとか、朝起きて珈琲を飲みながらレコードをかけたり、人が来た時にわざわざ引っ張り出して針を落とす、という体験をさせてしまうのがフィジカルならではの強さであり、その感覚は今の時代において、かなり尊いものだなと改めて思いました。今回の施策は100%デジタルというよりは、アナログ的な概念や考え方をかなり取り入れているのでいわゆる“ハイテク”ではないと思うんですけど、デジタルとフィジカルの間を溶かしていく、滲ませていくというのが僕らのやりたいことでもあるので、今回のような施策を今後も模索していきたいです。

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