店舗での“リアルタイム顔認識システム”導入の是非ーー英スーパーの試行利用が問題に

 顔認識システムがメジャーになり、スマートフォンのログイン画面から警察や政府機関などに利用を拡大する中、民間の顔認識システム企業の存在が目立つようになった。

 アメリカでは今年、Clearview AIによる顔認識システムが大きな議論を呼んだ。監視カメラのデータとSNS上に挙げられた写真を照合することで政府のデータベースに登録されていない人の身元を見つけるこの技術は、個人のプライバシーに介入するとして問題視されている。

 イギリス南部では先日、生協スーパーマーケットで民間スタートアップ・Facewatchによるライブ顔認識システムが、過去18ヶ月間にわたって試行利用されていたことが判明した。フランチャイズのこのスーパーは、南部の一部18店舗で万引きや従業員への嫌がらせ防止のためにこの技術を利用していたとみられる。

 これらの店舗では顔認識システムが稼働している旨は表示されていたが、この試用期間が始まる前の公への告知はなかった。人が店舗に入場するとカメラはその人の顔をスキャンし独自のデータベースと照らし合わせる。このデータベースは政府のものと異なり、主に過去に店舗で万引き歴のある人物やスーパーへの入店禁止となっている人物などを含めた、スーパー独自のものとなっている。これらのデータベースに登録されている人物が入店すると、店内の従業員のスマホに通知が飛ぶというものだ。

 今年に入り、店舗で万引きを止めようとした従業員への攻撃が8割増となっている中、この顔認識システムの導入は従業員を守る上でも重要だったとスーパー代表は話している。

民間顔認識システム企業と政府機関との関係

 ここで利用されているシステム「Facewatch」を運営するFacewatch社はロンドンのスタートアップで、今回のスーパーでの試用期間中は、3000件もの万引きや損害を防いだと発表している。「Facewatch」は主に民間の飲食店、スーパー、クラブなどにカメラを設置し営業妨害や何らかしらの犯罪行為を犯している個人を特定し、それぞれを独自のブラックリストに追加する仕組みとなっている。これらのデータは全てクラウド上にバックアップされており、簡単に共有が可能。

 そこで現在大きな論点となっているのが、各自で作成したブラックリストをFacewatchが集約した「総合ブラックリスト」の存在だ。すでにスーパーの他にもコンビニやガソリンスタンドなどで使用されており、ロンドンの550もの店舗で展開予定。ブラジルではすでに、警察と民間両者で利用されている。すなわち、Facewatchはこれらのカメラ上で犯罪行為が記録された場合、自動的に警察へ内容が送信される、というわけだ。

 このような民間の監視事業における一番の問題として挙げられるのが、警察などの法執行機関の権限を持たない企業が警察と同等あるいはそれ以上の力を持つことだろう。これらの独自のブラックリストは、それぞれの事業主などの独断と主観で作成されたものであり、必ずしも全てが逮捕や警察沙汰になった出来事とは限らない。

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