『サイバーパンク2077』とサイバーパンクジャンルの歴史
8年の時と数回の延期を経て、CD Projekt Redが12月10日、『サイバーパンク2077』をようやくリリースした。
巨大都市ナイトシティを舞台に、謎めいたインプラントを追うことになった主人公“V(ヴィー)”を操るオープンワールド・アクションアドベンチャー – 公式サイトより
ディストピアな近未来を描いたこのRPGゲームは、先行予約時点ですでに800万の予約を記録しており、現在すでに開発コストを上回る売り上げを記録している。ゲーム内の重要キャラクター、ジョニー・シルヴァーハンドを俳優キアヌ・リーブスが演じているのも一つの注目点だ。しかし、同時に現時点で特にプレイステーションやXboxなどのコンソールゲームでのクラッシュやバグ、そしてPC ゲーム内の特定の場所でのバグなどが見つかったことから、CD Projekt Redは謝罪声明とともにコンソールゲーム向けのプレーヤーへの返金に加え、今後の改善計画と修正版のリリース予定を発表している。
なぜいま「サイバーパンク」が人気なのか?
近年の映画、ドラマ、小説、ゲームなどを含むエンターテイメントの世界では、
ディストピアな近未来を描いた作品が注目を浴びている。その中でも特にテクノロジーの発展によってもたらされる人類の危機や廃れた未来像が目立つのは、現実世界でのテクノロジーの濫用による私たちの恐怖を反映しているのかもしれない。
人気HBO作品『ウェストワールド』は、AIで作り上げられたアメリカのウェスタン遊園地での人間とAIの関係を描き、Netflixシリーズ『オルタード・カーボン』はSF作家リチャード・K・モーガン作品の映像化であり、アップロードされた人間の意識を新しい体に入れ替えながら生き続ける近未来を描いた。2017年には1982年公開の『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー2049』が上映されたのも記憶に新しい。来年に延期になったマトリックスシリーズの第4編も含め、これら作品の共通する背景として挙げられるのが、「サイバーパンク」というSFのサブジャンルだ。
サイバーパンクとは?
サイバーパンクというジャンルの名付け親は、ブルース・ベスキの発表した1982年の短編集の題名『Cyberpunk』からきている。ベスキはサイバネティックス(人工頭脳学)という「人間の頭脳システムをテクノロジー(主にコンピューター)で代用する」という学問と、1970年代から80年代のアナキズムをベースにした音楽ジャンルのパンク精神を融合させてこの言葉を作った。だが、サイバーパンク的なアイディアやテーマはこの80年代前にも存在した。このジャンルの元祖として代表されるのが1960年代から70年代に活躍したSFのニューウェーブ運動であり、その中でもSF雑誌『ニュー・ワールズ』誌とその編集長であるマイケル・ムアコックの影響が、このサイバーパンクというジャンルの創設に大きく貢献している。
従来の宇宙空間における『スター・ウォーズ』的な壮大な未来像ではなく、テクノロジーの発展とそれらを中心にした社会の衰退を描きながら現実社会に蔓延る社会問題を可視化していく、というのがこのSFニューウェーブ運動の代表的な作風だ。ムアコックは新しいSFのジャンルを開拓していた若い作家たちを次々に掲載し、ニューウェーブ運動に拍車をかけた。