カルチャー好きな10代はPodcastをディグる時代(第2回)
今回も前回に引き続き、個人的にこれは面白いと思ったPodcast番組を紹介する。「カルチャー好き」と銘を打っておいてなんなのだが、音楽やファッション、映画といった「カルチャーといえば」なものではない分野にも、面白い番組がたくさんある。むしろ、歴史や学術研究などの分野が雑談形式でよりのびのびと展開されているのも、Podcastの良さかもしれない。今回も、ラジオの2次放送ではない、Podcastだけで勝負している番組をピックアップしたので、是非チェックしてほしい。
・コクヨ野外学習センター『働くことの人類学』
コクヨ野外学習センター(KCFR)とは、コクヨの研究機関・コクヨワークスタイル研究所と黒鳥社が企画・制作を務める、“リサーチユニットとしてのメディア”(「KCFRの成り立ち・機能・ミッション」)。このKCFRが交互に配信している2つのPodcast番組が、『働くことの人類学』と『新・雑貨論』だ。今回ピックアップしたいのは『働くことの人類学』の方で、文化人類学者の松村圭一郎(@kmatsumura15)をホストに、毎回さまざまな分野の文化人理学者をゲストに迎えて対談をしている。
これまで、パプアニューギニアの人々や狩猟採集民など、日本人とは全く違う環境で生活をしている人々にとっての「働き方」について話が展開されてきたのだが、どの回も、思考がパチンと弾けるような新しい価値観を知ることができて面白い。松村氏が“人類学すべらない話みたいなものをみんな1つずつぐらい持っている”と言うように、どの回のゲストも自分の研究分野を面白おかしく話せるのは、人類学者の特徴なのだろうかと思うほどだ。松村氏も、同じ文化人類学者だからこそ思い浮かぶような的確な質問を投げかけており、雑談が楽しいNHKスペシャルのような番組である。
たまたま聴いた、「第4話・前編『その日暮らし』のポテンシャル」回が秀逸だった。ゲストは、『その日暮らしの人類学』などの著者としても知られる、立命館大学の小川さやか氏(@machingirl2011)。“いつ倒産するかわからないのに、一つの仕事を一生やるなんて危ないからできない”、“仕事相手に求めるのは人を裏切るくらいのずる賢さ”といった、日本と正反対にも思える価値観・環境の中で生活するタンザニア商人の「働き方」の独特さ、そしてその妥当性について嬉しそうに語る小川氏は、本人も若干タンザニア商人の考え方をもとに生きているようだ。さらっと語られる暴露話に驚かされつつも、自分が「働く」上で当然のルールだと思っていたことは合理的なのかどうか、考えさせられてしまうだろう。
・シャイニングラジオ
ラッパーのTohji(@_tohji_)と吉本1年目の芸人イクト(@iramatio_)による“だべりPodcast”、『シャイニングラジオ』。筆者は、ダルそうなのに俊足で強気なTohjiの楽曲が好きで、以前から聴いてはいたものの、彼の人間性については追ったことがなかった。イクトのこともこのラジオを聴くまで知らなかったのだが、シャイニングラジオは、いつの間にか彼らの友人になったつもりで、「しょうもないな(笑)」とにやけてしまう。彼らのトークはジャンルレスで、最初から最後まで中2男子のような内容なのに、土台が知識豊富で双方センスがいいからか、いつまでも聴いていられるのだ。「〇〇知ってる?」「知らん」「最近アレしたらしいよ」といった調子で繰り広げられる会話には、音声だけだからこその親近感があるし、時々遠くで車やバイクが通り過ぎる音が聞こえるのも、スタジオで収録するラジオとは違う味があって良い。
「ゆるだべり」回は、冒頭からとても面白いので、二人のことをよく知らない人でもすぐに心を掴まれるのではないだろうか。和食の神と呼ばれる道場六三郎の料理は「どう美味しいんだろうね」とザックリ切り出すTohjiに、「俺いっこわかんのは、見た目なの。もうバチバチ。レディーガガみたい」と知識半分感覚半分で返すイクト。「あんま和食の良さ伝える時に言わないほうがいいよ、レディーガガ」「まあそれは俺が悪かった」といった調子で話を展開していく二人の間に、ちょうどリスナーの席一つ分のスペースがあるのが良い。やっぱ箸って大事だよね、IKEAの青い箸なんて酷かったわ、というくだりを聴いていると、2人を足してキザさをトッピングしたのが伊丹十三だったのだろうか、などと、伊丹十三が生きていた時代を知らないながらも思ってしまう。