『M 愛すべき人がいて』を彩るアーティストと音楽ーー浜崎あゆみや懐かしいあの楽曲など“秀逸な使い方”に注目

ドラマ『M』を彩る“音楽”に注目

 歌姫、浜崎あゆみの体験を基に、ノンフィクション作家・小松成美が執筆した小説『M 愛すべき人がいて』(幻冬舎刊)のドラマ化が話題だ。賛否両論、いや制作サイドとしては狙い通りの展開だろう。累計発行部数16万部の大ヒットとなった原作小説『M 愛すべき人がいて』。本作は正確には自伝ではなく、浜崎あゆみ本人からの聞き取りを元に書かれた小説だ。冒頭に“事実に基づくフィクションである”と書かれているのだ。

 ドラマにおける、テレビ朝日×AbemaTV(ABEMA)という初の共同制作ドラマという座組みにも注目したい。本作は、人気ドラマ『奪い愛、冬』、『奪い愛、夏』を手がけた鈴木おさむが脚本を担当し、安斉かれん(アユ役)・三浦翔平(マックス・マサ役)のダブル主演で、音楽業界の光と影、愛を描いたドラマに仕上げている。

 音楽業界の表と裏側という側面では、海外ドラマ『Empire 成功の代償』からの影響を感じた。インパクトの強い演出面は、80年代に日本で人気だった大映テレビが制作したドラマ『スチュワーデス物語』、『不良少女と呼ばれて』、『ヤヌスの鏡』の影響が大きそうだ。いわゆる荒唐無稽なキャラクター設定や、大げさなセリフ、大味なBGMを通じて、衝撃度高いストーリー展開が繰り広げられていく。主人公の成長物語を展開していく大河ドラマのようなフォーマットなのだ。

 主人公マサの秘書である姫野礼香を演じる、田中みな実の怪演も話題となった。アニメ『あしたのジョー』での丹下段平のように眼帯を着け、アクの強い迫力満点の演技に視聴者は釘付けとなったと同時にツッコミを入れずにいられなかった。「エイベックスに実際いなかったでしょ? こんな人!」と。なぜならフィクションだからだ。『スチュワーデス物語』でいうところの片平なぎさ的役回りと、知る人ぞ知る盛り上がりをみせ、SNSでは田中みな実の名前がトレンドワードにランクインした。さらに、2話ではアユを鬼のように徹底的にしごくトレーナー役として、水野美紀も演技バトルに参戦する。

 同様に音楽面にも注目したい。匂わせ、いや正確には明かされていないのだが、本編を観れば90年代音楽シーンには欠かせない人物が“それっぽく”登場している。しかも編成やルックスなどがアレンジされている場合もある。そう、ドラマ版『M 愛すべき人がいて』は、浜崎あゆみの物語ではなく、アユの物語なのだ。

<役名 = イメージするアーティスト?(公式サイトより)>
マックス・マサ(専務)= max matsuura(松浦勝人) 風
アユ(アーティスト)=浜崎あゆみ 風
輝楽天明(音楽プロデューサー)= 小室哲哉 風
冴木真希(アーティスト)= 相川七瀬 風
USG(アーティスト)= trf 風
OTF(アーティスト)= ELT(Every Little Thing)風
a victory(レコード会社)= avex 風

 実際、劇中に流れるtrfのヒット曲「EZ DO DANCE」、「BOY MEETS GIRL」はlol-エルオーエル- が演じるUSG名義となり、そこにはDJ KOO的役回りは登場せず5人組のダンスグループという設定だ。ELT(Every Little Thing)はOTF名義として、持田香織的なシンガー役を、ABEMAで放送された人気番組『月とオオカミちゃんには騙されない』への出演でブレイクしたFAKYのHinaが担当。メンバーをDa-iCE和田楓、栗原陸人が固め、相川七瀬的存在となる冴木真希をシンガー・Yup’inが演じている。さらに視聴者がザワついたのがエイベックスの発展に大きな貢献をした音楽プロデューサー・小室哲哉的存在(!?)である、劇中の輝楽天明のド派手なファッションやメイク、嫌味なセリフまわしだ。小室の一般的イメージとのギャップに“ツッコミどころ満載!”とネットが沸いた。

 いわゆる、昭和の演出方法で平成を令和につなぐ驚きの展開。ドラマによるフィクション世界を、演出という名のスパイスで楽しむというのが正しいトリセツになりそうだ。

 本作では、浜崎あゆみ楽曲はもちろんのこと、小室哲哉による往年の90年代ヒット曲が、“90S & NEW REVIVAL”をコンセプトとするカバー曲として潤沢に選曲されている。90年代とは小室プロデュース作品によるTKファミリーの時代だった。ある種、当時を知らない若いリスナーにとっては、オリジナル曲を知るきっかけになりそうだ。テレビ世代とネット世代を超えてタッチポイントを提供するテレビ朝日×AbemaTV(ABEMA)という座組みが有効に機能するかもしれない。

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