fhána 佐藤純一が語る「時代に合わせた音作り」と“万策尽き”かけた新曲制作秘話

fhána 佐藤が語る「時代の音作り」

“ストリーミング向けのマスタリング”に向き合う、ということ

ーー最新作「星をあつめて」の制作において一番重要だった機材は?

佐藤:「星をあつめて」はほぼ生音なので、この部屋の機材の音はほぼ入っていないのですが、作曲時は『Nord Stage』を弾きながらひたすら悩んでいましたね(笑)。メロディとコードが出来たら、今度はLogicでアレンジをしました。そういえば、最近Studio Oneを導入したんです。Studio OneはPro Toolsと同じくらい、もしかしたらそれ以上に音が良いですし、マスタリング用途としてもDDPが書き出せるのも大きいですね。

『Nord Stage』を弾く佐藤氏。

ーー佐藤さんは最近、マスタリングの領域を自身で手がけようとしていますが、これはどういう理由で?

佐藤:昔はCD用の44.1kHz/16bitだけでOKだったんですけど、今はCDだけの時代ではなく、YouTubeもストリーミングもDL配信もハイレゾもあるうえに、それぞれの特性も違ったりするじゃないですか。さらに、YouTubeやApple Music、Spotifyでも規定のラウドネスレベルが違っているわけで。

ーー音圧を高めにしていると、勝手に音量を下げられてしまう。

佐藤:そうです。そういうのを自分で色々試したいと思ったのがきっかけです。スケジュールや予算をあまり気にせず、検証したいなと。それこそ音源を「非公開」でアップロードしてみて、音を聴いて、ちょっと直して、もう一回アップロードして聴いてみて、ということもどんどん出来るわけですしね。

ーーストリーミング向けにどうマスタリングしていくかというのは、世界中のエンジニアやアーティストが抱えている課題ですよね。

佐藤:今はiPhoneやスマホのスピーカー直での聴こえ方にも気を配る必要がありますしね。海外の大御所エンジニアなんかも、CD用と各ストリーミングサービス用だけじゃなく、Instagram用に低音を切ってマスタリングしているみたいですしね。ただ、そうやってフォーマットを増やすとその分予算もかかってしまうので、アーティスト自身はもちろんですが、これからはレーベル側も、その重要性を認識してどこまできちんと予算とリソースを割けるかが大事になってくると思っています。

ーーハイレゾはまた、全然ミックス・マスタリングのやり方が違いますよね。

佐藤:求められている音が全然違いますね。ハイレゾの方が音がいいと思っている方が多いんですけど、そういう話ではないんです。ハイレゾってただのフォーマットなので、それよりも音楽的なバランスの方が重要なわけなので。ハイレゾだと入れ物が大きいから、より情報量を多く入れられますよってことなので、そのメリットを活かせるようなバランスで仕上げる必要がありますね。

ーー上も下も出過ぎちゃう、みたいなこともあるわけですし。

佐藤:曲によっては44.1kHzや48kHzのほうがむしろ音楽的に合っている場合も多々あったり、解像度が高いことが、必ずしもプラスになるわけではないから難しいですよね。

ーーそうすることで、曲の良さがある意味、分解されてしまう可能性もあるという。

佐藤:そこも含めて、色々試してみたいですね。でも、今のレコーディングは24bit/48kHz、32bit/48kHzがスタンダードで。ハイレゾが流行り出したときに96kHzで録るブームが来たんですけど、しばらくして多くのエンジニアさんたちもスタジオも48kHzメインに戻りましたね。96kHzで作業するとマシンパワーも容量も食うので、作業がスムーズに進められないことが多いんですよ。そうやって高スペックなフォーマットに縛られて、クリエイティビティが阻害されてしまっては本末転倒ですから。それはあまり健全とは言えないじゃないですか。これからPCの性能がもっと飛躍的に上がれば、96kHzで録るハードルは下がるんでしょうけど。48kHzで作ってもハイレゾ用のマスタリングの段階で、アップコンバートして作業するだけでも、プラグインの解像度は上がるし、その状態で作業するというだけでも意味はあると思います。それにクロックが96kHzになるだけでも、その時点でやっぱり96の音の質感に変わりますからね。もちろん、CD用のマスターデータをただ単にアップコンバートしただけみたいなものは論外ですけど。

ーー2020年の今の視聴環境を考えた上で、音作りの段階から意識している部分はありますか?

佐藤:マスタリング的なこともですが、ライブのことも考えて、音数は少ない方が絶対いいだろうなとだんだん思うようになりました。音数が少ない方が一音一音を大きく出来るし、どんな環境でもわかりやすく音が聴こえるますよね。それにライブで大きい会場になると細かい音って結局よくわからなくなっちゃうじゃないですか。そんなふうにワールドツアーをやるような海外アーティストが志向しているような音を意識しつつも……、でもそれはそれとして、作曲編曲の段階では自分が気持ちいいと思うように曲作りをしていますね。マスタリングや音質の話を沢山しましたけど、大事なのは音質よりも音楽ですから。

ーー視聴環境といえば、今回の「星をあつめて」は『劇場版 SHIROBAKO』の主題歌なわけですが、劇場で鳴る音とテレビ主題歌として作る音も、作り方が全然違いますよね。

佐藤:劇場映えする曲にしたくて、ストリングスとブラスがたっぷり入ったリッチな感じは意識しました。とはいえ、音数は多すぎないようにして、それぞれの楽器のアンサンブルやフレーズでどんどん展開していくことを考えて作りました。

ーーそれぞれが効果的に鳴っている感じはしました。個人的に一番好きなのはイントロとサビの2段目のフレーズで。ストリングスの駆け上がりがtowanaさんのハイトーンなボーカルと絡み合っていくところが素晴らしいですね。

佐藤:ありがとうございます。「星をあつめて」のストリングスはだいぶ攻めていて。好きだと言ってもらったトップの音がかなり高いんですけど、真部裕さんのストリングスチームが、彼らじゃなきゃ出せないような気持ち良さで弾いてくれました。

ーー気持ちよく上に連れて行ってくれるストリングスだなと思いました。そしてビートルズ感のあるイントロからマーチングっぽく始まって、どんどんシャッフルになっていく展開も面白くて。

佐藤:最初に水島努監督と打ち合わせをした時は、「劇場版『SHIROBAKO』は結構シリアスな展開だけど、いろいろあって、最後に流れてほっとするようなゆっくりした曲がいい」と言っていて。ただ、かといってバラードじゃないよなと思って、僕らの「いつかの、いくつかのきみとのせかい」という曲をその場で聴いてもらったら「ああ、これぐらいでもいいですね」というふうになって。そこである程度のBPMやリズムが決まっていきました。でも「星をあつめて」みたいなシャッフルのリズムの歌ものポップスって意外と少なくて、シャッフル曲だとだいたい『ラ・ラ・ランド』みたいな感じ(Another Day of Sun)の方向になっちゃうので、編曲するときに参考に出来る曲が全然なくて苦労しました。

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