後藤正文に訊く“ハイレゾストリーミングが音楽家に与える影響”「ちゃんと普及すれば、確実に何かが変わる」

Gotchに訊く「ハイレゾ普及による影響」

最近のラップミュージックから取り入れた“近くで歌っている感じ”

ーー「Nothing But Love」と「You」は、曲調も随分違いますよね。それぞれどのように作っていきましたか?

後藤:「Nothing But Love」は、まずゴスペルのフレーズが思いつきました。トラックはthe chef cooks meのシモリョー(the chef cooks me)が随分前に作ってくれて。そこにメロディをつけて、構成を考えてから彼に戻し、ブラッシュアップしてもらった段階でミックスの目処は立っていました。

 低音に関しては、シンセベースなのでそれほど難しくはなかったかな。キックとのすみ分けをどうするかと、音の隙間が結構あるので、それを潰さないように気をつけました。リヴァーブの切れ目みたいなところも聴いて欲しいなと思いながらミックスしています。

ーーボーカルの音響処理に関しては?

後藤:シモリョーと話していたのは、「なるべく近くで歌っている感じにしよう」ということ。そこは最近のラップミュージックの音作りに近いものがあるかも知れないです。彼らがどうやって録っているのか研究しながら取り入れていきましたね。

ーー例えば?

後藤:歌う時にマイクを3本立てて、真ん中のマイクにはコンプをガッツリかける。残りの2本は左右に開き、オケに合わせてバランスを考えながら混ぜています。ちなみに、ボーカルのボリュームはClip Gainという機能を使って細かく調整しました。コンプをガッツリかけるよりも、その方が自分が実際に歌った感じに近い気がして。自分で自分のボーカルをエディットするのって難しいですよね。「本当は、こう歌いたかった」に近づける作業ですから(笑)。

Gotch - Nothing But Love - Music Video

ーーでは「You」は?

後藤:「レコードだしB面は必要だな」と思って、以前ストックしてあった曲の中から引っ張り出してきました。ちょっとUSインディーっぽい曲調だから、「Nothing But Love」とは全く雰囲気が違いますよね。「同じバンド?」みたいな。もちろん、ヒップホップやR&Bは大好きなんですが、どうしても「You」のようなインディー・フォークっぽい楽曲は血が騒ぐんです(笑)。

ーー全編にわたってファルセットで歌っているのも新鮮でした。それがちょっとソウルっぽくて、曲調は違えど「Nothing But Love」ともつながるなと。

後藤:確かに。並べてみることで違いや共通点が明確になりますよね。マスタリングの時は、あまり無理して統一感を出す必要はないと伝えました。今回、アナログにするのですが、「Nothing But Love」は45回転、「You」は33回転の方が合うんです。速い回転数の方が情報量が多いから分離して聴こえる。33回転の方は、古い音楽を「塊」で聴いている感じがするというか。フォークっぽいサウンドに合うんですよ。

ーー片面ずつ回転数を変えて発売するとか……(笑)。

後藤:それやったら混乱するだろうなあ(笑)。めちゃくちゃなことになりそう。

ーーマスタリングエンジニアには、エラ・メイ『Ella Mai』を手掛けたクリス・アセンズを起用していますね。マスターテープを渡す時にどんなリクエストをしました?

後藤:「ローはふくよかに」「リミッターをそれほど強くかけなくていいです」とは伝えました。でも、ミックスの段階で「幅」を残しておいたので、4〜5dBくらいリミッティングしても大丈夫なようにはしてありました。あと、みんなが今気にしているのはラウドネスメーターですが、その数値は指定していますね。あとはお任せしています。実際、仕上がったものは素晴らしかったですね。さすがクリス。ただ彼はグラミーを受賞していますから、今後はおいそれと頼めなくなるかも(笑)。

ーーソロ名義の作品だからこそ、攻めたプロダクションを施しているところはありますか?

後藤:ありますね。ソロは僕にとって「実験の場」でもあって。「このくらいのラウドネスで配信するとどうか?」みたいなことなど、見定めているんですよね。そんなの、アジカンや他の依頼案件ではできないじゃないですか(笑)。「このくらいのリダクションなら、聴感上は気にならないんだな」とか、テクニカルな実験をいろいろしています。もちろん、作品の意図とズレない範囲での話ですけどね。その中で正解を探っているんです。今までずっとCDベースで日本の音楽を考えてきちゃったから、今は新たなフェーズに向けて考えなきゃいけなくて。楽しみながら、日々試行錯誤を繰り返していますね。

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