鈴木貴歩「エンターテックがカルチャーを創る」第4回
アジアにおける音楽ストリーミングサービスの未来は? 各社が語るハイレゾの可能性
前回もレポートした『ALL THAT MATTERS』はアジアの音楽ビジネスのハブとして確固たる地位を築いており、毎年多様性のあるマーケットを反映したパネルディスカッションが行われるが、音楽ストリーミングというグローバルのトレンドがアジアでも共有のキーワードとして語られていた。そして今回のパネルディスカッションはアジアならではの可能性や進化を感じさせる内容であった。
音楽関連セッションのキーノートとして、インディーズレーベルのデジタルライツエージェンシー「Merlin(マーリン)」のCEO、チャールズ・カルダス氏が登壇した。カルダス氏は彼らが流通を担当しているインディーズレーベルのデータから「アジアのストリーミングは他の地域より遅く立ち上がったが、アジア全体では今年、グローバルの倍の速度で成長している。この傾向は止まる事なく加速していくだろう」と、アジア市場拡大の期待を述べた。
マーリンの会員である独立系レーベルは約780社。<Beggars Group><Domino Records><Epitaph Records>など、世界の主要なレーベルをはじめとした47カ国の20,000以上のレーベルが参加し、マーリンを通じてYouTube、Spotify、Deezer、Google Play Music、KKBOXなどを含めた主要なデジタルサービスと原盤のライセンス契約を締結している。
「ストリーミングは母国以外の売り上げを増加させることに成功している」とカルダス氏はマーリンの“アウトバウンド”としての成果も強調し、ケーススタディを発表した。これは53カ国からなる多国籍のレーベルのデータを集計したもので、「日本のあるレーベルではストリーミングの比率が北米39%、ヨーロッパ26%、アジア12%に加えラテンアメリカでも19%となり、CDといったフィジカル商品の流通ではアクセスできない地域でのマネタイズが可能となっている」「あるアジアの母国語によるストリーミング比率は85%が母国以外の国となっている」と、ローカル言語の楽曲であってもストリーミングであれば世界中で流通するというデータも発表していた。J-POPも各地のイベントで日本語でシンガロングするオーディエンスが多数いるように、テクノロジーにより“現地化”の必要性に変化が訪れていると言える。
さらに「音楽消費はグローバルレベルになってきており、新たな戦略が必要となっている」とカルダス氏は強調し、アジア全ての音楽ビジネスパーソンに大きな可能性を提示した。
続く「Streaming Services in Asia」と題されたパネルディスカッションでは、Spotifyのアジア支社マネージングディレクター、スニータ・カウア氏、KKBOXマネージングディレクター、アンドリュー・ホー氏、DeezerのAPAC支社CEO、ヘンリック・カールバーグ氏、Hungama.comのCEO、シッダールタ・ロイ氏が登壇し、ストリーミングの可能性と多様性について語った。
カウア氏は「アジアの各国は、世界TOP10カ国に5つ入っており、都市別に見ても上位に多数ランクインしている。こうしたことからもアジアでのストリーミングビジネスは大きな可能性がある」とストリーミングの成長への確信を述べた。
カールバーグ氏は「プレイリストの次にリーンバック体験がくる。欧米ではFlowの利用率が50%」と、Deezerがアルゴリズムで最適な楽曲を自動再生する機能「Flow」が欧米で先行して受け入れられ、それがアジアでも通用する考えを明らかにした。またAmazon Echoといったスマートスピーカーについて尋ねられると、カールバーグ氏は「DeezerはGoogle HomeともHiFiサービスにおいてパートナーシップを締結したので、“Ok google,play my flow”ということもできる」と早々に対応していることを強調した。一方、アジア初のストリーミングサービス・KKBOXのホー氏は「アプリを通じてアーティストと一緒に楽曲を聴ける『Listen With』やKKBOXが提供するテレビ番組等のサービスを通じてアーティストとファンの繋がりを強化していく」と独自の戦略を語った。