Netflixドキュメンタリー『猫いじめに断固NO!:虐待動画の犯人を追え』は、最も不謹慎かつ面白い作品だ

不謹慎なまでに軽いタイトルに隠された謎

 前情報なしに本作を見始めた人は、想像もしていなかった内容に驚いたはずです。実際、私も『猫いじめに断固NO!』(原題は『Don't F**k With Cats: Hunting an Internet Killer』)というタイトルから、劇中にも登場するRescue Inc.やSPCAがやっているような動物救済ドキュメンタリーを想定しました。もちろん、「猫いじめ」と「虐待動画」というフレーズから、それが穏やかな内容でないことは容易に予想できました。しかし、まさかあそこまでの展開が待ち受けているとは。そして、その意外性こそが、製作側の狙いだったのだと思います。

 というのも、ボディ・ムーヴィンもジョン・グリーンも、彼らとともにルカを追っていた人々も、まさか子猫虐待動画の終着点がバラバラ殺人事件になるとは微塵も考えていませんでした。たった数日、気分転換になればと探偵ごっこを始めただけだったのです。そして、そんな彼女たちのきっかけが、「猫いじめを許さない!」という怒りの感情でした。

 本作は彼女たちが経験した一連の出来事、安易な気持ちでクリックしたその瞬間を、視聴者にも擬似体験してもらうことを目的として、あえてミスリードなタイトルをつけていると考えられるのです。ただ、計算されつくした演出や展開にあっぱれと思わされる一方で、わたしはこの題材は、こういった形でドキュメンタリーにされるべきではなかったとも感じています。

安易に手を出すべきではなかった題材?

 わたしが本作がこういった形で映像化されるべきでなかったと考えるのには理由があります。というのも、ルカの犯罪と彼がスナッフフィルムに収録した具体的な内容が語られないため、なんとも腑に落ちない部分があるのです。

 ルカ・マグノッタは、アジア人男性のジュン・リンを殺害しバラバラにした様子を収録した「1 lunatic 1 icepick」というスナッフフィルムをBestGoreという動画投稿サイトに投稿しました。ボディ・ムーヴィンと捜査官がその動画の悲惨さを語りますが、途中で「これ以上のことは口にすることすらできない」と口を閉ざしてしまいます。ところが、最後まで語らないことが原因で、関係者のルカに対するリアクションが歪んでいたり、過剰であるように感じられるのです。

 例えば、ボディ・ムーヴィンは「1 lunatic 1 icepick」の動画を見ながらインタビューアーと話をしますが、被害にあった人へのお悔やみの言葉を口にした後で、動画の後半に登場する「犬」が可哀想だったといった話をします。この流れは、英語で聞いても日本語字幕を見ても、人間よりも犬が殺されたことが可哀想だと思っていると誤解されかねません。

 また、ルカ・マグノッタは、逮捕されたドイツからカナダへ送還されましたが、どの航空会社もマグノッタを乗せることを拒否したため、結果的にカナダの軍が協力する異例の事態となりました。確かに、マグノッタの犯した犯罪は凄惨です。動物を虐待し、男性を殺して切断したところを動画にとって投稿し、切断した体の一部を与党・保守党と野党・自由党の本部、学校に送りつけています。しかし私には、彼らのルカに対する拒否反応がいきすぎているような気がしたのです。

 しかし調べを進める内に理解しました。「1 lunatic 1 icepick」の動画の後半は、多くの人が生理的嫌悪を抱く内容だったのです。

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