ピクサー作品の“魔法”に隠された努力と研鑽 小野寺系が『PIXARのひみつ展』から紐解く
展示には、『バグズ・ライフ』(1998年)のイモムシ・ハイムリックや、『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013年)の一つ目モンスター・マイクなど、実際に製作されたキャラクターの造形物にくわえ、パーツを組み合わせることで独自のキャラクターを作ることができる作業台や、バーチャル的な三次元空間に点を配置して立体的なかたちを作り上げる展示が並ぶ。
このように、キャラクターのかたちが決まったら、そのデータは「リギング」の工程に運ばれ、関節や表情など、稼動する部分のデータを追加、さらに次の工程である「サーフェイス」、表面の質感を表現するセクションへと移動する。こうやってキャラクターが実在感を持ち、演技ができる準備が整うのだ。
「モデリング」、「リギング」、「サーフェイス」……。このような工程それぞれに、資料と、それらの製作を体験できる展示が並んでいるので、鑑賞者は頭と体、両方でアニメーションができるまでの流れを実感できるというわけだ。もちろんそれは、この後のセクションでも同様である。
さて、キャラクターが完成したら、次は「セット&カメラ」のセクションへ。ここでは、キャラクターが動き回る空間の創造と、映像としてそれらを切り取っていくカメラワークを学ぶことができる。そこからさらに、その空間と構図のなかでキャラクターを動かして演技をさせる「アニメーション」の工程へと移っていく。
その後の「シミュレーション」では、コンピューターによる製作ならではの表現を目の当たりにできる。『メリダとおそろしの森』(2012年)では、主人公・メリダの髪の毛と、その繊細な動きが印象的だった。メリダが動いたり、風が吹いたりといった様々な場面で、彼女の髪の毛が自然な揺れを見せるのは、いちいちアニメーターが動きをつけているわけではない。コンピュータープログラミングによって、自動的に動作する仕組みが作り上げられているのだ。他にも、川が流れる表現や、キャラクターが身にまとっている衣類の動き、『ファインディング・ニモ』(2003年)の背景で動き回っている魚群などが、「シミュレーション」によってできている。
そして、雰囲気を高めたり、作品に情感を与えるのが「ライティング」のセクションだ。CGによって出来上がったセットやキャラクターに、様々な色合いのバーチャルライトをあてることによって、全く異なる印象を観客に与えることができる。