“大食い系YouTuber”なぜ人気? テレビのドル箱企画がネットへ移った理由を紐解く
サムネイルに、YouTuberを押しのけるように映り込むド迫力のフードメニュー。「〇〇kg!」「〇〇kcal!!」といったテキスト情報と共に眼前に飛び込んでくると、思わずクリックしたくなるものだ。
近頃、大食い系YouTuberの活躍が目立つ。8月22日には、双子の大食いYouTuber小野かこ・小野あこによる「はらぺこツインズ」が、トークバラエティ番組『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)へゲスト出演したばかり。彼女たちは、6月にも『噂の現場急行バラエティー レディース有吉』(フジテレビ系)にVTR出演している。その時はかっぱ寿司で245皿を平らげる模様が公開され、司会の有吉弘行を驚嘆させていた。
他にも、有志による外国語字幕もあり、海外のファンも多い同分野の第一人者・木下ゆうかをはじめ、チャンネル登録者70万人を誇る(8月29日現在)ロシアン佐藤、自身で料理も手掛ける谷やんなど、多士済々の様相を呈している。
大食いといえば、かつてはテレビの専売特許だった。90年代、テレビ東京系の競技型バラエティ番組『TVチャンピオン』の『大食い選手権』に始まり、00年代初頭には、赤阪尊子、小林尊、新井和響といった大食い界のスターを生み出したTBS系の『フードバトルクラブ』、草なぎ剛が「俺の胃袋は宇宙だ」が決め台詞のフードファイターを演じた日本テレビ系の連続ドラマ『フードファイト』など、大きなムーブメントを巻き起こしていた。
当時のテレビが打ち出していた大食い番組のメインテーマは、ずばり「競争」。フードファイターを起用した過激な早食い・大食い対決を繰り返し、時に吐き気を催してリタイアする光景さえ放送した。しかし2002年、大食い番組のフードファイトを真似した視聴者による死亡事故が起こったことで、ブームは一気に鎮静化していった。
ではなぜ今、YouTube上では大食い動画が人気を集めているのだろうか? まず、YouTubeには「大量系」が多くの視聴回数を獲得するという傾向がある。「駆け出しの頃ははじめしゃちょーを見て、大量系がバズってたので、実際に真似したらアクセス数が伸びた」とは、トップYouTuberヒカルの談。お金、くじ引き、トイレットペーパーなど、普通の人は所有できないような大量の何かが映し出される動画は、サムネの時点でインパクト絶大で、関心が集まりやすい。大食い系動画もその例に漏れないのではないだろうか。
もう一つ理由を挙げるとするならば、大食い系YouTuberの多くが、かつてのテレビのように「競技」へ重きを置かず、自分で料理をすることも含め「美味しく食べること」にフォーカスしていることもあるだろう。
たとえば、谷やんが8月24日に公開した「旬の野菜を最も美味しく食べる方法」と銘打たれた動画では、自分でドレッシングをつくって大量の新鮮な夏野菜を実食している。また木下ゆうかは、8月6日に投稿した動画の中で、フルーツ専門店で有名なTAKANOで購入した高級果物を使用した超メガサイズのフルーツパフェを作り、おいしそうに食べている。競技として無理やり「食べさせられている」苦しい表情ではなく、自分の食べたいものを好きなだけ食べている幸せそうな光景のほうに、魅力を感じる視聴者も多いのかもしれない。
もちろん、「お店の全メニュー早食い」なる名物企画で人気のマックス鈴木のように、早食いをテーマにする大食いYouTuberも少なくない。その場合は、安易に真似することの危険性や、食べることに集中するためマナーが疎かになる可能性があることなどの注意書きを動画内や概要欄に入れるのが通例となっている。自然と多くの人目に触れるテレビ番組より「主体的に選んで視聴する」傾向が強いネットの動画においては、こうした注意書きをすることで、よりチャレンジングな企画をコンテンツとして発信しやすい、という側面もありそうだ。