芳賀敬太&深澤秀行&三宅一徳に聞く、『FGOオーケストラ』CD・コンサート制作秘話

『FGOオーケストラ』開催記念鼎談

「オーケストラ感がわかりやすく伝わる曲を選んだつもり」(芳賀) 

ーー良い意味で、感性が刺激されてしまったと(笑)。クリエイター二人が刺激し合って作ったものを、三宅さんが丁寧に色付けして、素晴らしいひとつの絵にしていく、という流れだったわけですね。

芳賀:最終的に三宅さんのスコアが出来上がる度に、僕たちへフィードバックされてきて、「なるほど、こうするんだ」というのがだんだん分かってきたことで、提出する曲が変わっていくという変化もありました。

深澤:経験値10倍イベントでしたね(笑)。

ーー側から見ている限りは、強化大成功といえるのではないでしょうか。レコーディングを拝見しましたが、指揮者の竹本泰蔵さんも個性的な方ですよね。彼と組むことになった理由は?

三宅:僕からの提案ですね。都響が生にこだわっていたことと、僕らがドラムセットを避けてオーケストラの形にしたいと思っていたことが前提にあるんです。基本的にクラシックなどのオーケストラ形態では、リズムセクションが主体でグルーヴを作るということはほとんどなくて。指揮者の振るテンポに合わせて決まったフレーズを叩くのがほとんどなんです。でも、今回は継続したグルーヴがあるわけなので、テンポマスターがステージ上に2人存在することになるのが難しいところで。「このテンポでちゃんとやって!」と押さえ付けるライブの指揮者の方は合わないなと。オケの人たちは指揮者の動きに従うのに、リズムが走ってしまったらズレが生じてしまう。だからこそ、パーカッションがいい感じになってると思ったらそのプレイヤーにテンポを任せたり、そうじゃない部分ではしっかり引っ張ったりと、クラシック的に優れた指揮者と、別の資質の2つをあわせ持っている方がいいなと思い、竹本さんにご相談しました。

 あと、レコーディングにおいての彼は、時間管理のスキルもすごく高くて。クリックのテンポを曲中で自分で変えながら、手綱をゆるめたり締めたりするかのごとくリズム隊に寄り添わせることもできるし、オケのテンションも把握してこちらに色々と提案してくれたり。

芳賀:僕が竹本さんに初めてお会いしたのは、レコーディング当日だったんですけど、印象に残っているのはクワイアのレコーディングですね。『FGO』で入れてるクワイアって、基本的にハッキリした言葉じゃなくて、声を使った楽器のようなものなんです。でも「最果ての死闘 ~女神ロンゴミニアド戦~」のように音節が組み合わさって歌っているようなものについては、竹本さんから「この音や曲がどういう感情なのかを、直接クワイアに説明してほしい」と言われて、『Fate』を何も知らない方たちに、獅子王との戦いについて説明するという試練がありました。「世界を手に入れようとしている女神がいて〜」みたいな(笑)。

深澤:三宅さんはその様子や録音の様子を見て、めちゃくちゃ写真を撮ってましたし。

三宅:竹本さんがノリノリで歌いながら指揮棒を振るので、面白いなと思って(笑)。

ーーあのシーン、すごく面白かったですね(笑)。

三宅:芝居をする上での演出家の役割ですね。

芳賀:実際に作り手として意味を持たせてやったかどうかは別として、実際に歌うという上ではそれが必要なんだと勉強になりました。

深澤:しかも、クワイアのレコーディングではご自身も口を動かしてらっしゃって、ああされると歌わざるを得ないよな、と思いました。音楽の制作で忘れがちなところーー譜面だけ渡して「この通り歌ってください」というものではなく、引っ張る人がちゃんと音楽を表現してくださるっていうのは、本当にありがたいなと思い知らされました。

ーーそうしてCD音源を作ったわけですが、ここからコンサート向けにアップデートするにあたって変更した部分は?

芳賀:コンサートのセットリストが先に決まっていて、そこから「CDにするならこれをピックアップしよう」と決め、CD曲から演奏曲の順でアレンジをしていきました。CDのほうは、どういった編成かもわからない状況だったので、オーケストラ感がわかりやすく伝わる曲を選んだつもりです。

三宅:当初から舞台演奏を見据えてレコーディングに臨んでいましたよ。各楽器にマイクを立てて録ると、音量の小さい楽器を上げたりしたりとかなりデフォルメできるんですけど、あえてコンサートでも大丈夫なようにバランスを考えつつスコアを作ったので。

ーー1月30日に発売されたCD(『Fate/Grand Order Orchestra performed by 東京都交響楽団』)付属のブックレットに掲載された鼎談の取材時には、楽器隊が多くてステージの上に乗るかどうかという心配をしていましたが、大丈夫そうですか?

芳賀:マリンバとか木琴鉄琴を好きに使うと全て載せるのが不可能になるので、最低限の取捨選択は発生しましたね。

三宅:その時点でコンサート会場は決まっていたので、そこに乗っかるかどうかはなんとなく意識してはいました。打楽器奏者に関してはもともと7人の予定だったんですけど、色んな面を考慮して都響さんのほうで余裕を持って9人揃えていただいたので「じゃあなんでもできるじゃん(笑)」と。

芳賀:スペースの話だと、思ったよりクワイアも含めて「乗ったな……」という感じです。クワイアは32人もいますし、ストリングスは1stバイオリンが14、2ndバイオリンが12、ビオラが10、チェロが8、コントラバスが6という編成で。

深澤:クワイアがレコーディングのときよりかなり増えましたね。

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