大ヒットの秘訣は“歴史あるかわいさ”の追求? カスタムキャスト開発陣が語るVTuberの時代
10月3日にリリースされた『カスタムキャスト』は、とことんまでかわいさを追求できるキャラクターメイキングアプリだ。髪型や体形、顔など細かなところまで調整でき、自分好みのアバターが作ることができるほか、その姿で配信することもできる。そんなアプリが、リリースからわずか11日間で100万ダウンロードを記録し、SNSのトレンドにも上がるなど、瞬く間に多くのユーザーに受け入れられていったのはなぜか。その経緯や現在のVTuber業界について、『カスタムキャスト』の開発に携わっているドワンゴ担当・助田徹臣氏(写真右)、S-court CTO・ねい氏(写真左)、同代表取締役・Yamato氏(写真中央)にインタビューを行なった。(編集部)
“かわいさ”が認められて100万ダウンロード
——11日で100万ダウンロードと、スタートから大反響でしたが、いま振り返るといかがでしたか。
Yamato:ある程度の反響はあるだろうと思ってはいたのですが、ローンチした日にはツイッターのトレンドに入るなど想像していた以上の反応をいただけました。僕たちは疲れてすぐさま家に帰り、寝てしまっていたため、その様子を見ておらず……(笑)。毎日のように開発に打ち込んでいたので、当時はその状況に気づけていませんでした。僕たちが大きな反響があることを知ったのは、知人からアプリのランキングに入っていることを伝えられたときでしたね。いろんなところで拡散されて使われているのもそこで理解できましたが、その規模がイマイチピンときていなかったんです。その翌日、ドワンゴで打ち合わせをした際に最上もがさんなどの有名人がアプリを使ってくださっていて、そこで大きな反響を生んでいたことがわかりました。そんなこんなで、どれぐらい僕たちの手がけたアプリが広がりを見せているのかを徐々に実感できましたね。
——100万ダウンロードは予想外でした?
Yamato:予想していた、と言ったらどれだけ自信家なんだろうと(笑)。10日後に100万ダウンロードを目指しましょう、というのは僕たちもさすがにしないです。
助田:そうですね、していないです(笑)。
Yamato:なので、ローンチしてからすぐ100万ダウンロードを達成できたのは本当にビックリしましたね。
——ある期間までにこれぐらいダウンロードをしてもらえればいいな、という目標は立てていたのでしょうか。
助田:ローンチをする前は必ず目標を立てます。でも、公開している数字よりだいぶ低い数字を見込んでたんですよね。そもそも、『カスタムキャスト』はモデルを作るのが難しい、配信をするにしてもどうやればいいのかわからないという方々に向けて、キャラクターメイキングや配信を手軽にできるソフトを開発しようとしていたんですよ。そう考えるクリエイターの数は、そこまで多くないじゃないですか。なので、目標の数字も低く設定していたわけなんです。
——配信を目指す人以外にも広がりがあった。
助田:そうなんです。独自の切り口でいくつか調査をしているのですが、VTuberをやりたい、もしくはやっている人たちだけではなかった、ということが明らかになっています。VTuberとちょっと距離が離れているーーそれこそアイドルの方だったり、有名人がソフトで、“こんな姿になってみた”、“自分を作ってみた”というような使い方で楽しんでくれていて。それを見て、自分もアバターを作ってみよう、とソフトを触ってくださる方が爆発的に増えた結果、もとは想定していなかったライトな層にまでキャラクターメイキングが響いたんだと思います。
——たしかに一般層にまで届かないと100万ダウンロードは成しえなかったと思います。
助田:そもそもVTuber文化の延長線上でやっていましたが、今回の一般層への広がりで、「VTuberの文化とは何か」ということをあらためて問われている気がします。ただ3Dのかわいいキャラクターを作る、もしくはそれをシェアし合う文化というのは、これまで一般層になかったはず。これは、少なからずVTuberとの相関があるはずだと考えています。まだ知らなかった需要がここにあったんだな、という印象を持ちました。
——なぜそこまでの広がりを見せたのだと考えていますか?
Yamato:僕たちはS-courtは『カスタムメイド3D2』というPCソフトで、「3Dのかわいいキャラクターを作り、それをシェアし合う」という文化を経験しています。しかし、今回は規模や客層が全然違うので、多くの人にフックするのかは未知数でした。一つ言えるのは、これまではアンダーグラウンドなソフトとしてPCでやってきましたが、『カスタムキャスト』はほとんどの人が所持しているスマートフォンに切り替わりました。そのため、手軽さというのも、一般層に遊んでいただけたきっかけになったのだと思います。ねい:『カスタムメイド3D2』をリリースしたときにも、男女問わず「これが18禁じゃなかったらなあ」といった意見が挙がっていたんです。潜在的な需要はあったんじゃないかなと。
助田:VTuber文化が盛り上がり始めた2017年12月から、キャラクターメイキングの需要はあるという認識は持っていました。そこで人気のあるVTuberを見ていくと、みんなかわいいんですよ。それは、VTuberを追っている方々はアニメやゲームなどの文化に通じていて、目が肥えているという意味でもあります。そういった方々が文化を支えているなかで、自社でキャラクターメイキングのソフトを単独開発したとしても、前線で活躍するかわいい子たちにまでたどり着けないと思ったんです。
だとすると、「かわいい」を追求してきた歴史のある会社にお声がけしなければと。そこでS-courtさんに提案した、というのがそもそもの経緯なんです。実はS-courtさん側も同じ考えを持たれていて、スムーズに事が進んでいきました。紆余曲折あってスマートフォンにしようと決めたのですが、日本人はライトな層も“かわいい”には目が肥えているんですよね。つまり100万ダウンロードという形で結果が表れたということは、我々の追求したかわいさが、お客さんの厳しい御眼鏡に適った結果だと考えています。
——S-courtはもともとPCをメインにソフトを制作してきましたが、PCとスマートフォンの2枚看板でやろうとは考えていなかったのでしょうか。
Yamato:当初は考えていたのですが、スマートフォンでこの案件は徹底的に攻めるべきだと考え直しました。もちろん、PCで展開することのメリットがたくさんあることも感じてはいました。しかし、それをあえて封じてでもスマートフォン一本に注力したほうが成功するだろうと考え、方向性を切り替えたんです。なので、PCならすぐできることをあえてやらずに、時間をかけてでもスマートフォンをやっていこうと。その時点で目標をスマートフォンに絞っていました。
PCソフトの分野は長い間やってきているのですぐできたとは思いますが、取り組んだところで先に見える景色がなんとなく想像できてしまったんですよね。でも、スマートフォンで出した場合はどういった反応をもらえるのかわからなかった。それならば、その可能性に賭けたほうがいいと思い、スマートフォンでやることに決めました。結果、とてつもない反響をいただけてよかったです。