ブロックチェーンは音楽コミュニティをどう変化させる? 新たなビジネスモデルの可能性を考察

 2017昨年末の仮想通貨バブルと2018年初めのNEM盗難事件によって、仮想通貨は一気に日本でもメジャーな存在になった。中身はよく知らなくても、仮想通貨という単語だけは耳にしたことがあるという人は多いだろう。しかし、実は仮想通貨はブロックチェーンというテクノロジーで実現できるサービスの1種類でしかなく、ブロックチェーンは仮想通貨以外にも様々な用途で広がっていく。

 ブロックチェーン業界の動向を予見するには、過去のドットコムバブル(IT関連企業の異常な株高。ITバブル)が大変参考になる。1990年代後半から急速にバブルになり、2001年にドットコムバブルは弾けた。2001年9月の911テロ不況の影響もあり、2000年代は多くのIT企業にとって苦難の時代となった。しかし、Googleやアマゾン、eBayといった一部のベンチャー企業は生き残り、現在に至っている。20年前のドットコムバブルの時代にインターネット・ITという単語ばかりが広がっていったが、その技術を活用したキラーコンテンツであるiTunes StoreやSNSが実現したのは、実はドットコムバブル崩壊前後なのである。iTunesが発表されたのは2001年(まだこのころは、iPhoneではなくiPodだった)、Facebookが創業されたのは2004年であり、どちらもドットコムバブル崩壊後の混乱期を乗り越えて成長している。

 ブロックチェーン業界の現状がバブル崩壊直後なのか、第二のバブルの前の調整時期なのかは誰にも分からないが、ブロックチェーンというテクノロジーは世界各地に浸透し、これを活用した新しいサービスの芽は既に芽生え始めているのが2018年である。

 本稿では、ブロックチェーンが普及して音楽コミュニティにどのような変化が起こりうるかについて考察したいと思う。

ブロックチェーン時代には「所有権」を売買する

 ライト層の音楽の視聴スタイルはSpotifyやApple Musicのような定額聞き放題が定番になってきているが、一方で、限られた人にしか聞けないプレミアム音源というものに高値が付く可能性がある。

 そもそも、デジタルデータがプレミアム化する、という概念自体がブロックチェーン時代の発想なので、ブロックチェーンに馴染みのない方にはイメージが湧きづらいかもしれない。ブロックチェーン以前の世界では、基本的にデータは無限にコピーされてバラ撒かれるものだからこそ、iTunes Storeのような中央集権的な機関が著作権を保護する必要があった。しかし、ブロックチェーンの技術を活用すれば、デジタルデータの所有権をユーザー同士が売り買いできるようになるのである。

 ここでなぜ、あえてデータ本体ではなく「所有権」と書いたかというと、ブロックチェーン時代にはデータのオリジナルは基本的にIPFSと呼ばれる分散保管システムに格納され、ユーザーがデータのオリジナルをローカルにダウンロードするという文化は次第に消えていくからである。データの保管やデータ処理は、ワールドコンピューター等と呼ばれる全世界的なコンピューター群で処理し、ユーザーは所有権だけをやりとりするという世界観は多くのブロックチェーンプロジェクトに共通している。ビットコインに代表される仮想通貨も原理的には同じであり、ユーザーはビットコインというデータを所有するのではなく、ビットコインの所有権を売り買いしているのである。つまり、データ自体は全世界のビットコインネットワークに分散されて保管されており、誰の所有物でもない。あえて言うならば、人類の資産、という概念となる。

 現時点では、音楽データや映像データを全てIPFS型で保存するのはコストが大変割高なのでほとんど実用化されていないが、NEM財団の進めているProximaXというプロジェクトのように、容量の大きいメディアコンテンツをトークンとして売買可能にできるようなシステムを目指しているプロジェクトは増え始めている。

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