ブロックチェーンは音楽コミュニティをどう変化させる? 新たなビジネスモデルの可能性を考察
ブロックチェーンと体験型コンテンツ
音楽データや映像データの所有権を売り買いできるとなると、音楽コミュニティにはどのような変化が起きるだろうか。アーティストがユーザーに定額で直接売るだけなら、利益率が変わるぐらいで、既存のiTunesStoreと大きな違いはないであろう。しかし、ブロックチェーンの場合はデジタルデータに所有権の制限ができるのである。そして、メルカリやヤフオクのような、ユーザー同士が所有権を転売しあう機能を追加することも可能だ。
これに類似したビジネスモデルを実施しているのが現代アート業界である。現代アート業界では、アーティストの制作したDVDをギャラリー側が生産数を決めて、ナンバリングするのである。例えば、限定30枚生産なら、世界に30枚しかオフィシャルに生産してないDVDだから価値がある、という論理だ。しかしながら、当然のごとくそのDVDはいくらでも複製可能であり、そもそもギャラリーが30枚しか生産していないということを証明するのは不可能であった。
ところが、ブロックチェーンを使えば「ファンクラブ会員限定販売のシークレットライブ映像の所有権 限定100個」といった売り出し方が誰でも簡単にできるようになるのである。しかも、その所有権が売り買いされる度に、販売代金の5%がアーティストに還元される、というような仕組みも将来的にはできるだろう。
もちろん、所有権の数を制限したところで、映像コンテンツや音楽コンテンツを再生しているスマホの画面を物理的に録画されてしまうことを防ぐことはできない。しかし、違法コピーされたものに所有権を付与することは不可能だ。そのため、正規ユーザーだけの何らかの特典と組み合わせていくことで、無料の違法コピー品ではなく、正規品を購入するインセンティブをユーザーに与えることが肝になっていくだろう。正規所有権を10曲以上保有しているユーザーでないと入れないライブイベント、オンラインライブトーク、ツアーのS席、ディナーショーなど、体験型のコンテンツとは特に相性が良いはずだ。
新しいエコシステムを作る想像力
iTunes、Spotifyと続いたデジタル配信システムはCDというビジネスモデルを崩壊させ、80年代や90年代のように、デジタルデータだけで収益をあげるのは困難になった。しかし、ブロックチェーンが登場したことにより、今後はデジタルデータの所有権とファンのネットワークをどう繋げるかのセンスが問われるようになる。
ブロックチェーンは、従来の概念での商売がうまい人よりも、政治がうまい人の方が成功しやすいシステムである。従来のビジネスモデルの常識を一旦忘れ、アーティストとユーザーを巻き込んだ新しいエコシステムを作る想像力が、これからの音楽業界には求められるであろう。
■VJyou
高校時代よりベーシストとしてバンド活動や作曲活動を開始。2006年、しばし滞在していたドイツで出会った光景をきっかけに、映像と照明を掛け合わせた空間演出家VJyouとして活動を開始。2008年にベルギーのArkaos社よりGrandVJ Artistとして登録されたのをきっかけに、アップルストアなどでVJセミナー講師も行うようになる。 「いつも歩く道からほんの少し違った世界」をテーマに、実写素材とプログラミング素材を掛け合わせたインタラクティブで有機的な表現を続けた結果、ダンスと画を融合させたLiveCinemaという作品作りを開始。2014年にはCID ユネスコ WORLD DANCE CONGRESS 2014 にてLiveCinema 『Awake』を上演するなど、国内外問わず精力的に活動を続けている。
http://vjyou.com/