ポイントは歌番組との差別化? YouTube活用した海外音楽プロモーションを分析
InstagramやFacebookにTwitter、SNSを中心にメディアプロモーションのプラットフォームが多様化してきた中で、いまあらためて注目されているのがYouTubeだ。
「YouTubeは検索エンジンだが、世界最大のVOD(ビデオ・オン・デマンド)プラットフォームでもある」とは、カタール・ドーハの衛星テレビ局<アルジャジーラ>のザイナブ・カーン氏の言葉だ。氏がソーシャルコンテンツエディターを務める、スマートフォンニュース配信アプリ「AJ+」は2014年にローンチされ、Facebookを中心にInstagramやSnapchatと手を組みながら成長してきたが、2016年夏以降、主力プラットフォームをYouTubeへとシフトした。『BuzzFeed』や『The Atlantic』などの海外パブリッシャーは、ウェブサイトのPV(ページビュー)よりもリテンションと滞在時間を重視しており、YouTubeの性質とアルゴリズムを注視している。
スポーツシーンにおいても、NBAのスター、ケビン・デュラント選手が2017年、自身のYouTubeチャンネルを開設し注目を浴びるなど、広いエンタテイメントにおける、腰を据えたプロモーションツールとしてYouTubeの価値は上がっているのだ。
そして本稿の主題は、音楽シーンにおけるYouTube。お気に入りのアーティストのミュージックビデオをチェックし、気になるアーティストや楽曲があれば、GoogleよりもまずはYouTubeで検索してみる、という人も多いだろう。独自のアルゴリズムが新たな音楽との出逢いへと導いてくれることも少なくはないはず。リスナーにとっても、発信する側にとっても今や欠かせないプロモーションツールとなっている。かつては、“無料公開”することにどこか躊躇いもあった日本の音楽シーンであったが、海外における「まず聴いてもらわないと意味がない」という考え方は、そんなシーンを大きく変えつつある。
海外におけるYouTubeのプロモーションは以前より幅広く行われてきた。最近では個人のYouTuber(海外では“YouTube Star”と呼ぶのが一般的)の注目度も高いが、海外におけるYouTubeの音楽プロモーションに目を向けてみよう。
テレビ歌番組とは相反するYouTubeのコンテンツ作り
海外でのテレビ番組は再放送が頻繁に行われており、人気番組は放送局を変えて何度も再放送されるので、見逃しても後で視聴できる可能性が高い。そのため、日本のBlu-rayレコーダーのような録画機器はほぼ存在しない。録画に関していえばDVR(Digital Video Recorder)と呼ばれる録画機能付きのチューナー(STB)が一般的で、光学メディアに書き出す習慣はない。加えて、サイマル放送や公式サイトなどのアーカイブ視聴も盛んだ。日本でも昨今“スマートテレビ”が普及しつつあるが、海外ではそうしたテレビとインターネットの垣根はとうにないのだ。
そうした中でのテレビ番組との差別化、YouTubeならではの音楽コンテンツ作りとして注目されるのは、あえて作り込まず素のままを見せるようなスタイルだ。
米ラジオ局、<KEXP-FM>がYouTubeで発している「Live on KEXP」は放送後に映像がアップされる。ラジオ局ならではの“音”に特化した内容で、レコーディングさながらの光景と編集なしの臨場感が人気だ。
そして、「Tiny Desk Concert」は米ナショナル・パブリック・ラジオ局<NPR Music>が主催する企画。“Tiny Desk=小さな机”が指す通り、こじんまりとした部屋で最低限の演奏形態でパフォーマンスされる。とはいえ、多くのアーティストがひと工夫用いたスタイルで演奏するのも海外らしいところだ。普段のコンサートでは味わえないアットホームでアーシーな雰囲気が好評で、ここに出演することは世界中のアーティストにとっても、栄誉あるものとなっている。
お世辞にも整頓されているとは言えないこの机がある場所は、同局の番組『All Songs Considered』のホストであるボブ・ボイレンが実務で使用しているオフィスだ。フォークシンガー、ローラ・ギブソンとの冗談から2008年に始まったこのコンサートは、2016年時点で述べ550あまりが開かれ、累計8000万回再生を誇る。
先日紹介したYouTube演奏家の記事(参考:踊るバイオリニスト、バグパイプの女神、DIYギター……“凄腕”な海外のYouTube演奏家たち)では、ハイクオリティな映像演出に触れたが、大手メディアはあえてこうした素朴さを売りにしているところも注目したいところだ。