ポイントは歌番組との差別化? YouTube活用した海外音楽プロモーションを分析

YouTubeの海外音楽プロモーション

ミュージックビデオでもライブでもない“セッション動画”

 そんな中で、YouTubeに特化したごく小規模のメディアが増えている。アコースティックを中心に、アーティストの演奏スタイルはより自由であり、シチュエーションや演出、映像編集もさまざまなものが混在している。ミュージックビデオでなければ、ライブでもない、まさに音と映像のセッションワークだ。

AURORA - Little Boy In The Grass | Mahogany Session

 イギリス・ロンドンの「Mahogany Sessions」、ドイツ・ケルンの「Cardinal Sessions」など、自然や街中、日常を切り取ったような中での、温もりを感じられる優しい歌と音を聴かせてくれるアコースティックセッションのチャンネルは世界各地にあり、それぞれに特色がある。

Justin Timberlake - Say Something (Official Video) ft. Chris Stapleton

 中でもフランス・パリ発「La Blogothèque」は古い短編映画を思わせるような美しい映像演出がジャスティン・ティンバーレイクの目にとまり、自社チャンネルでのセッションにとどまらずオフィシャルビデオを制作するまでに至った。

VDub Sessions // Sports plays "Dina" (Episode 130)

 ユーモアセンスに溢れるセッション動画も多い。米オクラホマ州の「The Vdub Sessions」は1977年製フォルクスワーゲン・ワーゲンバスの車内でパフォーマンスするという内容。ロンドンタクシーの車内でパフォーマンスするイギリスの人気メディア「Black Cab Sessions」(Vimeoで公開中)のオマージュだ。

楽器メーカー/媒体によるプロモーション動画

 音を目で聴く、と言わんばかりに、FenderやErnie Ball Music Manをはじめたとした楽器メーカー各社は、商品紹介のみならず、独自のセッションやドキュメンタリータッチの動画を多くアップしている。

Rig Rundown - Queen's Brian May

 米アイオワ州のギター誌『Premier Guitar』は2007年設立の比較的新しい媒体ながら、誌面、ウェブ、YouTubeと連動した展開で一躍世界中のギターマニアが知るところになった。コンサート会場に赴き、プロの使用器材を専属の楽器クルーに解説してもらうコーナー「Rig Rundown」は、その斬新さとマニアックすぎる内容が業界内でも大きな話題となり、滅多に取材に応じないアーティスト本人が率先して登場することも珍しくない。「偉大なギターヒーローも、いつまで経ってもギターキッズなのだ」と思えるコンテンツだ。

実演販売演奏家

1954 Fender Stratocaster 01035

 ヴィンテージギター好きなら必ずその姿を見たことがあるであろう、Phil X。アヴリル・ラヴィーンやトミー・リーのアルバムなどに参加していたカナダ人ギタリストだが、カリフォルニアのギターディーラー「Fretted Americana」のYouTubeチャンネルに登場。ほぼ無名ながらも、やたらハイテンションのパフォーマンスと歴史的稀少価値の高いヴィンテージギターを物怖じせず弾き倒す男気、何より自分に酔い知れるシャウトとどんなギターでも同じようなサウンドメイクで弾くアクの強いプレイのおかげで、本来の主旨であるギター自体のサウンドレビューがまったく参考にならない、というシュールさに世界中のギターマニアが熱狂した。その活躍はとどまることを知らず、BON JOVIのギタリストとして、リッチー・サンボラの後任に迎え入れられるほどになった。

グレッグ・コッケも卓越したテクニックと饒舌なトークで人気者となったYouTube実演販売ギタリストだ

 アメリカでは、メーカーや楽器店の宣伝のほか、クリニックなども各地で頻繁に行われており、「オリジナル楽曲を発表し、ツアーを廻る」という一般的なアーティストとは違った、演奏に特化したプレイヤー型のアーティストたちが、YouTubeを通じ、より多くのリスナーに広がっている現状もある。

 海外のこうしたYouTubeメディアを見ると、企画自体の発想力もさることながらアーティスト当人のフットワークの軽さも大きく影響していることがわかる。面白い企画であれば、大物だろうが小規模のYouTubeメディアに率先して登場していることが興味深い。日本ではメジャーのアーティストがセッション動画を所属レコード会社以外のところでアップすることは、正直難しい。もちろん、楽曲権利や管理体制の異なる海外と比べるのも無茶な話ではあるが、日本の音楽が世界から注目されるようになった反面で、その閉塞的な部分も浮き彫りになってきているのも事実だ。

 近年、海外では「自身のYouTubeチャンネルを持っていてもウェブサイトは持っていない」という若手インディーアーティストも珍しくなく、カタログとしてのYouTubeと情報発信のSNSにアウトプットを集約させ、サイトを閉鎖していくアーティストも多く見受けられる。メジャーアーティストも当たり前のように自身のYouTubeチャンネルを持っているが、日本はどうだろうか? 多くのアーティストは、レコード会社やレーベルのチャンネルにミュージックビデオをアップしているように思う。

自身がエンドース契約しているギブソングループの機材をフル活用したDIYレコーディング企画。YouTubeでアナログを駆使する姿勢はある意味、時流に投げかけるアンチテーゼなのかもしれない

 国内にも奥田民生のように独自の発想で楽しませてくれるアーティストもいるし、luteのような新しいメディアも登場してきた。中でも自社のYouTube番組を複数持ち、レコーディングやコンサートの制作現場の細かいところまで見せているアップフロントグループは、かなり革新的な存在であるといえる。

マネジメント会社であり、制作会社であり、レコード会社である、という自社完結型のアップフロントの強みを最大限に活かしている番組「アプカミ」

 CDバブルを体感してきた世代の音楽ファンは、「最近の子はYouTubeで音楽を聴いている」と皮肉混じりに口にする。しかしそれが事実なのかは問題ではなく、それだけ音楽ユーザーにとってYouTubeの存在が大きくなっていることを表しているのである。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。

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