優れた「2D表現」とのギャップを埋めるためにーープロダクション・デザイナーが語る、3DCGアニメーションの進化

プロダクション・デザイナーが語る3DCGアニメーションの進化

パトゥリ氏はどうして日本へ?

――さて、パトゥリさんのキャリアについても聞かせてください。カナダのご出身だそうですが、なぜ日本でアニメーションの仕事をしようと考えたのでしょうか。

パトゥリ:正直なところ、最初は何でもいいから日本に行きたい!と思っていたんです(笑)。14歳のころに読んだ『アップルシード』(士郎正宗)というSF漫画にものすごい衝撃を受けたんですよね。周りの友人たちは『X-MEN』とか、いわゆるアメコミを読んでいましたが、絵は細かくても、リアリティを感じなかった。逆に『アップルシード』は、絵はもう少しシンプルなのだけれど、ものすごいリアリティを感じたんです。政治の話も入ってくるし、子どもが読むような作品ではないのでは、とも思ったんですけどね(笑)。特にアクションシーンがスゴくて、これは士郎正宗さんがアニメから影響を受けて取り入れたんだと思うんですけど、静止画なのに、本当に動いているように見えたんです。アニメもゲームも、エコシステムのようにすべてに統一してすばらしい部分があり、心を奪われました。なぜ北米の人はこれに気が付かないのか、と何回か思って、やっぱり日本に行くしかないと。

 日本の方は、ハリウッドの映画や海外ゲームの方が進んでいる、と思うかもしれませんが、90年代の日本アニメの影響がものすごく大きいんですよ。特に日本は演出がすごく上手で、僕の友人のアートディレクター、映像制作者たちも、みんな日本のゲームやマンガの要素を少しずつ取り入れている。種は日本が蒔いたものだ、と確信できます。

 例えば、うちで『トランスフォーマー』を手がけたときに、海外のクリエイターが描いてくれた見本や、ディレクターの指示だと、“タメ”のようなものがなく、あっさりと流れていってしまうんです。そこで、キャラクターが登場したときにポーズをつける、という指示になかったものをアニメーターがつけて、送り返したら、「これはいい!」と採用されたり。“間”のとり方からして、日本の演出は優れているんです。

――なるほど。キャリアに話を戻すと、14歳のときに衝撃を受けて、ついに日本にいらっしゃったのは……?

パトゥリ:最初は1999年で、日本語学校に通いながら、いろいろなゲーム会社にポートフォリオを出しました。でもまったくダメで、カナダに戻って広告会社でグラフィックデザインのしごとを2年して、その間に、日本語学校で知り合った人に、日本のウェブ制作会社を紹介してもらったんです。2001年に日本に戻り、ウェブデザインやTV番組のCG制作をして、2003年にコナミに入社。ロゴデザインやテクスチャを担当して、2005年にディズニー系のアンサー・スタジオに移りました。そこで3Dアニメーションの制作全般を行い、2013年からポリゴン・ピクチュアズで働いている、という流れです。

今後のアニメーションはどう進化していくか

――継続的にCGの世界を見てきたなかで、あらためて、技術の進化についてはどう捉えていますか?

パトゥリ:ここまでリアルなものが作れるとは想像していませんでした。2Dから3Dへのここまでのシフトも想定外ですし、不安もあったんです。申し上げたように、いまでは3Dのゲームが2Dキャラクターの表情をうまく再現するまでになってきましたし、やはり以前は2Dの表現の方が勝っていた爆発や煙、蒸気などのエフェクトも、“演技”には至らないまでも、3Dでかなりうまく再現できるようになっています。こうした進化は想像以上ですね。

――新しいもので言うと、VRなどの技術についてはいかがでしょうか。

パトゥリ:VRだと、テーマパークの体験型アトラクションが面白いですね。ただ、アニメーション、映画への活用となると、自由にカメラを回せるのがとても難しい。3Dアニメーションであれば、実写映画のようにセットを組み、そこでキャラクターを動かしていますから、仕組み的には可能なのですが、「見てはいけない/見られたくない角度」というのは確実にありますので、それをどう解決していくかが課題であり、楽しみなところでもあります。世界観に没入できるのは大きな魅力ですし、眼の前にあるものを手で触れられるようになったりしたらすばらしいですね。本編ではなくても、特別コンテンツとして、特定のシーンをVRで楽しめる、という話は出てくると思います。実際、ポリゴン・ピクチュアズでも『シドニアの騎士』というアニメーション作品のDVDとBlue-rayに、あるシーンの別アングルバージョンをつけて――例えば、本編では主人公視点だったシーンを、ヒロイン視点で見られるようにしてみたら、ユーザーの方からかなり好評でした。

――最後に、今後アニメーションはどのように進化していくと思いますか?

パトゥリ:アニメーションにしても、今日お話に出たテーマパークにしても、ゲームにしても、映画にしても、お互いが影響を与えあって、エンターテイメントとして進化していくんだと思います。どの分野のクリエイターも、ほかの分野をものすごく気にして見ているし、新しいものがあればどうやって取り入れるかと考え続けていて。そこで生まれたクリエイティブな発想が、現実世界に影響することもあると思うんです。例えば、いまのスマートフォンのような指でスワイプして操作する仕組みは、『マイノリティ・リポート』(2002年)で描かれていましたし、そうやって、現実も含めてピンポンのようにボールを打ち合っていて、ラリーがいくつか続いただけで、別物と思えるほど大きな進化になっていく。一見あまり関係ないようなものも、最新のクリエイティブに影響していると思います。私も未来に向けて、しっかりボールを打ち続けたいですね。

(取材・文=編集部)

■公開情報
『GODZILLA 決戦機動増殖都市』
2018年5月18日、全国公開
監督:静野孔文、瀬下寛之
ストーリー原案・脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
声の出演:宮野真守/櫻井孝宏/杉田智和/梶裕貴/諏訪部順一他
製作:東宝
制作:ポリゴン・ピクチュアズ
配給:東宝映像事業部
(c)2018 TOHO CO., LTD.
公式サイト:godzilla-anime.com

作品紹介:アニメーション映画『GODZILLA』三部作<第二章>。『決戦機動増殖都市』では、体高300メートルを超える歴代最大のゴジラ<ゴジラ・アース>を倒すためにシリーズ不動の人気を誇る<メカゴジラ>が新たな姿で現れる。

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