Appleが“雑誌のNetflix”=Textureを買収 その戦略と現地ユーザーからの期待とは

Appleが“雑誌のNetflix”=Textureを買収 その戦略と現地ユーザーからの期待とは

 Appleのビジネスはますます多様化しつつある。コンピューター、タブレット、スマートフォンにスマートスピーカーといったハードウェア開発に加わって自動運転車プロジェクトも水面下で進められている。それだけではない。昨年から活発になったオリジナル動画コンテンツの制作、定額制の音楽配信サービスApple Music、とコンテンツ制作・配信ビジネスにも力を入れている。

オンライン雑誌配信サービス「Texture」を買収

 そんな中、飛び込んできたのが「定額制オンライン雑誌配信サービスであるTextureをAppleが買収」というニュースだ(Apple)。雑誌のネットフリックスと呼ばれるTextureはアメリカの出版業界の大手企業が共同出資して立ち上げられたジョイント・ベンチャーNext Issue Mediaによるアプリを使ったサービスだ。月額9.99ドルを払って参加している雑誌のデジタル版を読める、というサービスになっている。近年では雑誌メディアもその多くの記事をウェブサイト上で公開しているが、全てがオンラインで無料で読めるわけではない。Textureに加入すれば、好きな雑誌のコンテンツを全て読めるようになる。ナショナル・ジオグラフィックやエスクワイヤー、ローリング・ストーン、ヴァニティ・フェア、ヴォーグ、コスモポリタンとメジャーなタイトルはほとんどが読み放題になる。雑誌好きにはたまらないサービスだろう。

サービス・ビジネスを強化するApple

 このニュースを受けてテックメディアたちは「Appleによるサービス・ビジネス強化」という流れを見出しているようだ。QUARTZは「iPhone販売による2017年度の収益は1410億ドル」に対してサービス提供による収益は「毎四半期に80億ドル」、という数字を挙げて「Appleの次の大きなプロダクトは(デバイスではなく)サービスか」と予測している。四半期毎に80億ドルという数字はすでにiPadとMacコンピューター販売の収益よりも大きいとのことだ(QUARTZ)。Appleは2021年までにこういったコンテンツ/サービス・ビジネスによる年間収益を500億ドルまで増加させる予定だ(Bloomberg

 こういったビジネス好調の兆しは色々なサービスで見られる。Apple Musicはローンチからまだ3年も経たないが、有料会員数は3000万人を越えている(9TO5Mac)。様々なメディアからの記事を配信するアプリApple Newsも多くのユーザーにとっての標準ニュースアプリとなった。2016年の段階で月間ユーザー数は6000万人を越えている(CNET)。それほど人気が出ず、話題にならないiBooksも、Amazonのエグゼクティブを引き抜いてデザインの刷新に取り組んでいるようだ(Bloomberg)。

 Amazonによる雑誌のデジタル配信プラットフォーム、と聞くとAppleのデバイスに標準インストールされていたアプリ「Newsstand」を思い出すユーザーもいるかもしれない。iOS9のリリースと同時に終了されたこのアプリは雑誌・新聞のデジタル・コンテンツをダウンロードし閲覧するものだった。これが現在の「Apple News」の前身である。

業界からのニーズ

 出版業界は紙からデジタルへの移行に長く取り組んできたが、未だに課題を多く抱えている。デジタルにおける一つのビジネス・モデルが上手く行ったかと思えば、プラットフォームによるアルゴリズム変更や、デジタル広告ビジネスにまつわるスキャンダルに翻弄されることの繰り返しだ。そのためパブリッシャー側は、収益を安定させながら、読者を拡大できるサービスを未だに常に探している。そのため信頼できるニュースアプリやTextureのような雑誌配信サービスが、彼らからの期待を集めている。

 ユーザー側にもニーズは存在している。昨年のアメリカ大統領選挙をきっかけに世界中で問題が浮き彫りになった「フェイク・ニュース」騒動によって、FacebookやTwitterはユーザーからの信頼を失うことになった。

 Appleはこれを好機と捉えて、FacebookやTwitterを情報収集に使っていたユーザーたちの時間を獲得しようとしているのかもしれない。ちょうどこのTexture買収のニュースが報じられたと同時に、Amazonからはプライム会員宛の「プライム会員は雑誌をデジタルで読めるんですよ、知ってましたか?」という告知メールが筆者の下にも届いた。デジタル・サービス市場ではAmazonを始め多くのテック界の巨人がしのぎを削っている。今後も彼らの一挙手一投足が注目されそうだ。

■塚本 紺
ニューヨーク在住、翻訳家・ジャーナリスト。テック、政治、エンタメの分野にまたがる社会現象を中心に執筆。
参加媒体にはDigiday、ギズモード、Fuze、GetNavi Webなどがある。
Twitter:@Tsukamoto_Kon

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