「Facebookの顔認識をオフにする方法」を伝える海外メディア 顔テンプレート・データは重要な生体情報、というこれからの常識

 Facebookが初めに画像における顔認識機能を導入したのが2013年。ユーザーが投稿した画像の中の人々の顔に自動で名前をタグ付けするこの機能に、驚きと共に気味の悪さを感じた人も多かっただろう。あれから5年が経ち顔認識機能はあらゆる場面で進化してきた。

 iPhoneの新モデルではロック解除にも顔認証が使われるようになり、顔認識を使ったセキュリティシステムや動画や画像に写った人物を特定するシステムもどんどんと精度を増してきている。便利さはたしかに実感できるものの、顔認識が今後のセキュリティや社会インフラでどのように使われるのかまだまだ分からないからこそ、この技術に漠然とした不安を抱えている人は多い。自分の顔に関するデータが悪用されるのではないか、という不安だ。

「プライバシーの強化」のために使われる顔認識

 そんな中、昨年12月に発表されたFacebookの顔認識機能のアップデートが各地のユーザーに導入されつつある。この機能、自分がタグ付けされていなくても、Facebook上に自分が写っている画像が投稿された場合に通知してくれるというものだ。それによって自分の知らないところで自分の画像がアップロード・拡散されるという事態を防ぐことができる。また視覚障害のあるユーザーに対してはアップロードされた画像に他に誰が写っているかを伝える助けにもなるという。

 これだけを聞くとプライバシーの強化なのだが(実際にFacebookの声明はそういう体裁になっている)、メディアの反応は「Facebookの顔認識機能を停止する方法(WIRED)」や「Facebookの新しい顔認識機能を停止する方法(Mashable)」とユーザーに対して注意を換気するものが中心となっている。

 その理由の一つには、既にFacebookにおいて画像の自動タグ機能をオンにしているユーザーたちには、デフォルトでこの機能もオンになってしまうことがある。「気付かないところで顔認識がオンになってるかもしれませんよ」という注意を促しているわけだ。

 もう一つは「Facebookが今後、顔認識で何をしようとしているのか分からない」という不信感から来ている。

顔テンプレート・データという生体情報

 そもそもユーザーの顔を認識するためのデータを蓄積、保管、分析するということ自体がプライバシーに関わる。実際に今回のアップデートも、プライバシーにまつわる規制の関係でヨーロッパとカナダでは導入されていない(BBC)。

 アメリカでも2013年の顔認識機能は訴訟に発展している。そのうちの一つのユーザーからの集団訴訟に関しては、Facebookは連邦裁判所に棄却を求めていた。しかし2月26日に裁判所がFacebookの要求を却下したばかりだ。その直後に多くのFacebookユーザーが今回の新機能のオプトアウトに関する通知を受け取り始めたことから、「これは法的な責任を逃れるための対策か」という考察をFast Companyがしている。

 また多くの海外メディアが指摘しているように、たとえユーザーがオプトアウトしたとしても、Facebookのシステム上では顔認識がされ続けるのか、ユーザーの顔データが保管され、今後のプロダクト開発(例えば広告との連携だとか)に利用されるのか、といった点は不明瞭だ(Slate, Gizmodo)。

 Twitter上ではジャーナリストのAvi Asher-Schapiro氏が次のように警鐘を鳴らしている。

 「Facebookが今日出した、「顔認識を利用する方法をさらに追加しました」という発表は、Facebookがあなたの写真を使って顔データという、DNAや指紋にも似た個人特有のバイオメトリックに関するデータベースを構築しているという事実を思い出す良いきっかけだ」

 こういった警鐘は、顔テンプレート・データが今後広く普及することを想定しているように思われる。顔を認識するための顔テンプレート・データは個人用のデバイスのロック解除から国家間移動のセキュリティ・チェックといった重要なセキュリティ場面で利用される、れっきとした生体情報だ。今後はさらにクレジット支払いなど広範に応用されていくだろう。それを広告を収入源とするテック営利企業がデータベース化していることに対して危機感を持っているわけだ。

■塚本 紺
ニューヨーク在住、翻訳家・ジャーナリスト。テック、政治、エンタメの分野にまたがる社会現象を中心に執筆。
参加媒体にはDigiday、ギズモード、Fuze、GetNavi Webなどがある。
Twitter:@Tsukamoto_Kon

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