世界に勝てるロボット開発のテーマは「妖怪」? ユカイ工学代表・青木俊介が追求する、ロジックに頼らないロボティクス

青木俊介が追求するロジックに頼らないロボティクス

しっぽ付きのセラピーロボット『Qoobo』誕生秘話

――最初に大きな話題になったプロダクトとしては、やはりスマートフォンのアプリと連動して、家にいる家族とメッセージのやりとりができる『BOCCO』でしょうか。

青木:そうかもしれません。BOCCOはわれわれがきちんと量産して販売する主力製品としてデザインしたもので、きっかけはいくつかあります。まず、いまはAIスピーカーのようなものがけっこう出てきていますが、スマホの技術を使い、Wi-Fiにつながって、2~3万円で動くものがつくれるようになったのは、だいたい3~4年前のことでした。つまり、スマホの普及に合わせて、センサーや通信を行うためのチップが非常に安くなったからです。そこで、常にインターネットにつながっていることを前提にしたロボットができるようになりました。これがテクノロジー的な背景です。

 一方で、個人的なことですが、ちょうどそのころ、自分の子どもが小学校に上がるタイミングだったんです。うちは共働きで、スマホは渡したくないけれど、ちゃんと家に帰ってきたことが自分にもわかったり、そこでメッセージのやり取りができたりするといいな、と考えていて。SNS全盛の現代、大切な人との距離が逆に遠くなっている、という感覚もあり、「友だちのつぶやきより、大切な人の様子が知りたい」という思いも強くなっていたので、「外にいても子どもの声を聴いてニヤッとしたい」「家にいる家族に簡単にメッセージを送りたい」という人のために、“現代の座敷わらし”をつくろうと企画したんです。

――なるほど、やはり妖怪ですね。

青木:最初の企画書には、「家に宿り家族をつなげてくれる、家族のためのコミュニケーション。留守番ロボットで家を見守る時代の到来です」とだけ書いて。フェイスブックを見て、知り合いのおじさんが何を食べたとか、そういうことよりも、自分の子どもが給食で何を食べたか、という方が知りたいですからね(笑)。そんな形でプロジェクトがスタートしたのが、2014年でした。

――「ほかにもこんな機能があれば」と、ついついオールインワンの便利なものを目指してしまいがちだと思うのですが、あえて機能を絞り、シンプルなロボットになっています。

青木:いろいろできるようにしようとすると価格も高くなりますし、機能がよくなってもみなさんそんなにお金を出してくれるわけでもないので、基本的に、機能は削る方向で考えています。また、人間は本質的に、単機能のものが好きなんだ、とも思っていて。一時期、テレビパソコンというものが流行りましたが、結局誰も使わなくなりましたし、スマホをリモコンにして、テレビのチャンネルも替えられれば、エアコンもつけられる…というのも技術的にはできても、使われないですよね。

――なるほど。そして、直近で世界的に話題になったのが、しっぽ付きのクッション型セラピーロボット『Qoobo』です。まさにユカイ工学的なロボティクスの真骨頂、という感じがしますが、どんな経緯で生まれたのでしょうか?

青木:毎年、社内で4~5人のチームをいくつかつくり、アイデアのコンペをしているんです。実際に試作品をつくり、プレゼン大会をしているのですが、その優勝チームのアイデアがもとになっています。試作品の段階で、形はほぼできていました。

――『CEATEC JAPAN2017』に出品され、多くの関心が寄せられました。

青木:特に海外のジャーナリストの方からの反応はすごかったですね。面白がってくれる人はいると思っていましたが、CEATECは真面目な展示会ですし、電機メーカーの方たちに「おもちゃショーに持っていったほうがいいんじゃない?」なんて言われてしまう可能性もあると考えていました。でも、みなさんすごく興味を持ってくれて。また、コンセプトを考えたのが女性社員だったこともあって、最初はひとり暮らしの女性によろこんでいただけるかな、と思っていたのですが、実際にはお年寄りにすごくよろこんでいただけました。

――セラピーアニマルのような役割も期待できて、“面白いアイデアロボット”という域を超えていますね。

青木:そうですね。常にそこを目指したいな、とは考えています。「ユカイ工学」という社名の由来でもありますが、ただ便利なものではなく、しかしただのおもちゃでもない、愉快な製品をつくろうと。

日本企業として世界と戦うため、「面白い」「かわいい」を追求

――最後に、ユカイ工学が目指す未来についても聞かせてください。

青木:僕たちは自分たちの製品もつくっていますし、他社のお手伝いもしており、そのなかで、ゆくゆくは一家に一台ロボットがある世界をつくっていきたいと思っています。そのときに、ユカイ工学が果たすべき役割はどんなものか。例えばコンピュータの世界で言うと、マイクロソフトはエクセルやワードをつくり、世界中に普及させました。一方で、同じコンピュータを任天堂はゲームにして、やはり一家に一台あるような時代をつくったわけです。そして、われわれが目指していくべきは、後者に近いものだろうと。つまり、ビジネスや効率化という面では、日本の企業が世界で戦っていくのはなかなか難しい。でも、「面白い」とか「かわいい」という部分なら、十分に戦えると考えていて。

――「一家に一台ロボット」が実現するには、さまざまな条件があると思いますが、どこにポイントがあるでしょうか?

青木:カギになるのはAIだと思います。ただ、それは会話をする、ということより、なで方で持ち主がわかったり、声だけで体調がわかったり、という進化なのではと。おそらく、今後10年というスパンでモーターやバッテリーという分野で大きなイノベーションは起きないと思いますので、期待できるのはAIですね。

 やはり、僕たちは言語に頼らないコミュニケーションにすごく可能性があると思います。音声を認識するとか、言語を解釈したり理解するという分野では、Google、Amazon、マイクロソフトが巨額の資金を投じているところですし、僕らの出る幕はないだろうと。ただ、ロジックで説明しづらいものに関しては、彼らは絶対に苦手なんです。そして、人間は必ずしも論理的な存在ではないので、ロジックにならない部分こそが大事だということもあると思います。

 例えば、レーシックは何十年も前に開発された技術で、安全性も証明されているけれど、手術を受ける人は年々減っていて、多くの人はメガネをかける。論理的に考えれば、コストの面からもレーシックを受けほうがよさそうなのに、みんな「ちょっと嫌」くらいの感覚でそうしない。ロボティクスがいかに発展しても、そういう人間の本質自体は変わらないでしょう。いつの時代も子どもは体を使って遊ぶのが楽しいし、そういう動物的な部分は何十万年も変わらない。生活空間を考えると、ソファも壁にかかった絵画も、昔のもので十分心地良いですよね。だから、壁一面がテレビになったり、テーブルがタブレットになったりする、未来らしい未来は、たぶん訪れない。便利なものや、未来的なものが必ずしも心地いいものではないので、僕らはテクノロジーとアイデアを使い、ロボットでその部分を埋めていくことができればと考えています。

(取材=編集部/写真=竹内洋平)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる