『ドラマなふたり』の“いたたまれなさ”とアメリカ文化 意外な監督との共通点も?

『ドラマなふたり』の“いたたまれなさ”

 木下によれば、これはクリストファー・ボルグリ監督作に通底するテーマである。

「ボルグリはノルウェー出身の若手監督で、前作の『ドリーム・シナリオ』(2023年)からアメリカで撮りはじめたわけですが、そこでも“どこまでがモラルとして許されることか”というボーダーラインを問うことがテーマになっています。かなり変な物語の映画で、ニコラス・ケイジ演じる大学教授が、本人はなにもしていないのにいろいろなひとの夢の中に登場していってしまう。最初はたんに出てくるだけだったのだけど、そのうち夢の中で暴力やレイプをするようになって、それが問題になって村八分になってしまうという話なんです。ニコラス・ケイジは実際にはなにもしていないんです。でも、周囲のひとは『彼がいると安心できない=safeじゃない』と糾弾する」

 さらに、『ドラマなふたり』と『ドリーム・シナリオ』をつなげると見えてくるものはまだあるという。

「ボルグリの監督作には“演じ直す”というテーマもあると思います。『ドラマなふたり』で、結婚式がめちゃくちゃになったあと、ふたりが知り合ったばかりの他人同士の演技をしてやり直そうとするというラストは綺麗で面白かった。まあ、もし現実に結婚式であんなことが起こってしまったらなかなかやり直すことは難しいでしょうし、そこは日本社会でもアメリカ社会でも同じ感覚だと思いますが(笑)。それはさておき、『ドリーム・シナリオ』でも、もっと軽いところで同じモチーフが出てきます。ニコラス・ケイジ演じる大学教授が変に有名になってしまったことで、彼を利用して儲けようとするスタートアップが出てくる。その社長によるピッチのシーンで、最初の提案に対して『そんな話には乗れません』と言われると、社長がくると後ろを向いて、しばらくじっと待ち、『じゃあやり直しましょう』と別バージョンの提案を始めるという演出が出てきます。そもそも『ドラマなふたり』にしても、冒頭のシーンからカフェでかわいい女の子に話しかけるために嘘をついて、しかも片耳が聞こえていなくてやり取りがぎくしゃくしたのでもう一度演じ直すというところから始まるわけですしね」

 この“演じ直す”というテーマは、『ドラマなふたり』の原題である“The Drama”とも関わってくるのだろうか。

「もちろん、生きるうえで演技することをポジティブに捉える意味合いもあると思います。ただ、英語の“drama”にはネガティブなニュアンスもあって、そこは注意が必要です。たとえば、“Don’t be dramatic.”という言い回しで、『メロドラマみたいに大げさに振る舞うな』とか『感情的になるな』とひとをたしなめたりする。小さい子どもが嫌いな食べ物を前にして『こんなの食べられない』と泣いたりときに親が”Don’t be dramatic.”と叱るみたいなイメージで、言ってしまえば“感情をきちんとコントロールするのが大人だ”という美学ですね。『ドラマなふたり』の原題にしても、この作品がブラックコメディであるということもあって、必ずしもポジティブではない意味も込めた皮肉の要素もあるのではないかと」

 『ドラマなふたり』は、アメリカをはじめとする世界でのヒットぶりに比べれば、日本ではやや盛り上がりに欠けている印象もある。最後に、この文化的違いについて木下はこう語る。

「やはり『ドラマなふたり』の大きな特徴は“いたたまれなさ”ですよね。こんなものは見たくないと思いつつ見てしまう感じ。アメリカ映画だと“居心地が悪いブラックコメディ”というジャンルが日本よりも確立されていて、そういうものを楽しめる人間がおしゃれで知的なんだみたいな文化がより強い気がします。 “いたたまれなさ”という意味では、監督としてのタイプはまったく違いますが、たとえばケリー・ライカートの作品もシチュエーション自体は近い感触のものが多い。『ファースト・カウ』(2020年)は主人公たちが稼ぐためにやっている悪さが絶対いつか見つかってしまうだろうという話ですし、残念ながらまだ日本での劇場公開が決まっていない最新作『マスターマインド』(2025年)も、主人公があまりに愚かで、美術館から絵を盗むのが明らかに失敗するということが分かりながら見るしかないといういたたまれなさがあります。最後に『ドラマなふたり』に話を戻すと、結婚式までは“これはどうせ結婚式うまくいかないだろうな”という、ある種のケリー・ライカート的な心理的いたたまれなさがある。そして、それが結婚式で暴発してホラー的ないたたまれなさ(あるいはプロデューサーで入っているアリ・アスター的ないたたまれなさ)に展開する。そういう複数の“いたたまれなさ”が含まれていることもこの作品の妙なのかなと思いました」

■公開情報
『ドラマなふたり』
全国公開中
出演:ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン 、アラナ・ハイム、ママドゥ・アティエ、ヘイリー・ゲイツほか
監督・脚本:クリストファー・ボルグリ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2025年/アメリカ/106分/英語/5.1ch/英題:The Drama/字幕翻訳:牧野琴子
©2026 Dramatic Movie Rights LLC. All Rights Reserved.

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