『風、薫る』中村倫也が約1カ月ぶりに再登場 静かなまなざしに宿る“ロイヤルな気品”
待っていました、と言わんばかりにSNSが沸いた。
9月2日に放送されたNHK連続テレビ小説『風、薫る』第113話に、中村倫也演じる柳生藤次が約1カ月ぶりに再登場。X(旧Twitter)では「柳生さん」がトレンド入りし、「相変わらず、色気がすごい」「カッコよすぎる……」「しごできオーラが半端ない」といった声が相次いだ。
これまで柳生が登場したのは、第92話から第94話までのわずか3話。それにもかかわらず、これほど好意的に迎えられたのは、中村が限られた出番の中で、柳生藤次という人物に鮮やかな輪郭を与えたからだろう。
柳生の初登場は、あまりにも強烈だった。赤痢が蔓延する坂塚村の避病院で、りん(見上愛)が藁の下から伸びた手を見つけ、亡くなった患者だと思って合掌すると、「まだ生きてる」という声とともに顔を出す。凄惨な状況が描かれる中で、思わず笑ってしまうような登場だった。
柳生は東京から現地調査に訪れていたが、村人から赤痢を持ち込んだ犯人だと疑われていた。身の危険を感じ、ほかの患者がいる部屋には入らず、廊下で一人療養していたという。
赤痢に苦しみ、周りからぞんざいに扱われているにもかかわらず、柳生は声を荒らげて自らの潔白を訴えたり、助けを求めたりはしなかった。藁にくるまり、投げやりにも見える態度を取りながら、自分が置かれた状況を一歩引いたところから見ている。中村も、荒い呼吸や弱々しい声、力の抜けた身体によって、病にむしばまれていく柳生を表現する一方、その目からは光を失わせない。調査員としての役目を手放さず、りんと直美(上坂樹里)たちの働きを冷静に観察しているようなまなざしが印象的だ。
だからこそ、回復した柳生が直美の前にスーツ姿で現れ、内務省衛生局の役人であることを明かした場面にも説得力があった。
病床で見せた気だるさは消え、背筋を伸ばして立つ柳生。弱々しかった声にも張りが戻り、話し方は端正で無駄がない。このままいけば死亡率を1割に抑えられ、米の収量への影響も少なく済むだろうと分析し、坂塚村での防疫活動を「目覚ましい事例」として上に報告すると直美に告げた。
患者と役人。中村は身体の使い方や声を変え、柳生の二つの顔を鮮やかに演じ分けている。ただし、まったくの別人に変身したわけではない。患者だった頃から見せていた冷静な観察眼は、役人としての姿にもシームレスに引き継がれている。立場が明かされたことで、それまでの振る舞いの意味まで違って見えてくるのだ。
第113話では、悪質な派出看護婦会の取り締まりを求め、りんと直美が柳生のもとを訪ねる。命の恩人とも言える2人を前に、柳生は「光栄だな」と微笑んだ。
派出看護婦会の悪い噂が広まっていることは、柳生も把握していた。ただ、「何事も初めのうちは玉石混交になるのは当然のことだ」と、慌てて排除に動こうとはしない。派出看護という新たな仕事が社会に広がっていく過程を、少し離れたところから見渡しているようだった。
それでも、りんが「誰にでも担える仕事じゃない。適切な看護を学ばなければ、患者さんの命に関わります」と食い下がると、その訴えを退けることはなかった。2人から何か手を打ってほしいと求められ、「分かった。まずはその実態を調査することを検討しよう」と応じる。冷静さを崩すことなく、現場で働く2人の声を受け止める姿に、役人としての懐の深さが見えた。