『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』配信! “傑作”と言われる所以を解説

 終盤で描かれるのは、「マフティー」が補給ポイントとしていたエアーズ・ロック付近での戦い。原作小説ではそこに連邦軍の量産型モビルスーツ「グスタフ・カール」がやってきて、ハサウェイの乗る「Ξ(クスィー)ガンダム」と戦闘を繰り広げる。しかし『キルケーの魔女』では、レーン・エイムの操る練習機「アリュゼウス」との戦闘シーンが追加されていた。

 「アリュゼウス」のコアには量産型ν(ニュー)ガンダムが使用されており、半壊状態になるとその姿が明らかになってくるという仕掛けがある。本家のν(ニュー)ガンダムといえば、ハサウェイがトラウマを負った第二次ネオ・ジオン戦争でアムロ・レイが搭乗していた機体だ。そのためこの戦いをトリガーとして、ハサウェイは精神状態に大きな危機を迎えるのだった。

 ハサウェイのトラウマとは簡単に言うと、好意を寄せていたクェス・パラヤを目の前で失い、復讐のために仲間であるチェーン・アギを撃墜してしまった出来事を指す。『キルケーの魔女』の終盤ではこの過去がフラッシュバックするとともに、ハサウェイが幻想上のアムロと対話を繰り広げるという心理描写が追加されている。

 さらにもっとも大きな原作改変が、ラストシーンに登場。ギギが連邦軍の機体から「Ξ(クスィー)ガンダム」に飛び移り、それをハサウェイが受け止めるというドラマチックな再会シーンにおける描写だ。

 原作のハサウェイはヘルメットを付けたままギギを迎えるため、彼女を心理的に拒絶しているような印象を受ける。だが『キルケーの魔女』ではヘルメットのバイザーが外される上、ギギとのキスシーンまで描かれている。原作からはっきりと逸脱した展開なので、この先物語の分岐が生じるのではないか……と期待するファンもいるようだ。

 こうしてまとめると、『キルケーの魔女』ではハサウェイの精神的な危機が強調されているように見える。しかしそれと同時に、同作が地球連邦の横暴や政治の腐敗について描写していることも重要だろう。

 たとえば冒頭のシーンでは、連邦軍のキンバレー部隊がオエンベリに集結した反政府分子の人々をモビルスーツで蹂躙する場面が登場。そこでは戦場をボディカメラで撮影したような映像が使われており、フィクションと現実の境目を超えるような切迫感が漂っていた。戦争の悲惨や権力の恐ろしさを描き続けてきた富野由悠季のリアリズムを継承した表現と言えるだろう。

 そんな世界のあり方が克明に提示されるからこそ、正義を貫くために己の人間性を克服しようとするハサウェイの姿が、なおさら高潔なもののように感じられる。

 たしかにハサウェイは過去のトラウマから逃避するため、高邁な理念に身を捧げているのかもしれない。しかしそれはあくまで一面でしかなく、腐敗した世界と対峙する戦士としての姿もまた本質だ。そもそも彼が周囲の人々から愛され、英雄視されているのは、その高潔さが理由だろう。

 『キルケーの魔女』が傑作たる所以は、ハサウェイをたんなる精神的に追い詰められた哀れな人間として描くのではなく、人間味のある革命家として表現していることにあるのではないだろうか。

 もしまだ『閃光のハサウェイ』シリーズに触れたことがない人は、見放題配信が始まるこのタイミングでぜひ鑑賞してみてほしい。

■配信情報
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』
Prime Videoにて配信中
キャスト:小野賢章(ハサウェイ・ノア役)、上田麗奈(ギギ・アンダルシア役)、諏訪部順一(ケネス・スレッグ役)、斉藤壮馬(レーン・エイム役)
原作:富野由悠季、矢立肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida、恩田尚之、工原しげき
キャラクターデザイン原案:美樹本晴彦
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、中谷誠一、玄馬宣彦
メカニカルデザイン原案:森木靖泰、藤田一己
美術設定:岡田有章
美術監督:大久保錦一
色彩設計:すずきたかこ、久保木裕一
ディスプレイデザイン:佐山善則
CGディレクター:増尾隆幸
撮影監督:大山佳久
特技監督:上遠野学
編集:今井大介
音響演出:笠松広司
録音演出:木村絵理子
音楽:澤野弘之
企画・制作:サンライズ
製作:バンダイナムコフィルムワークス
配給:バンダイナムコフィルムワークス/松竹
©創通・サンライズ
公式サイト:https://gundam-official.com/
公式X(旧Twitter):https://x.com/gundam_hathaway

関連記事