『映画ちいかわ』キャラIP×物語のハイブリッド戦略 『鬼滅の刃』とは異なるヒットの構造
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』(以下、『映画ちいかわ』)が公開2週目にして興行収入40億円を超える大ヒットとなっている。イラストレーター・ナガノ氏がSNSで展開するマンガを原作とする本作は、マンガやアニメの枠を超えて街中で頻繁に見かけるキャラクターコンテンツとしての地位を獲得しており、映画の大ヒットはそうした人気に後押しされたものだ。
本作の物語は、原作マンガでもとりわけ人気のある「セイレーン編」を映画化したもの。マンガ自体は、いわゆる連続ものではなく単話、あるいは数話で完結するスタイルであるため、原作を読んだことがなくても理解できる内容となっている。
『映画ちいかわ』は果たしてどれくらい興行成績を伸ばすのか気になるところだが、そんな本作のIPとしての強さの源泉を考えてみたい。
マスコット的な受容と強固なストーリーのハイブリッド
「ちいかわ」はナガノ氏個人が生み出したキャラクターと世界観をベースにしたマンガを原作にしているが、その受容・消費のされ方は、一般的なマンガIPとは異なる。
公開中の『映画ちいかわ』も原作未読の人が多く鑑賞しているようだが、マンガの内容は知らなくても、キャラクターを見たことがあるという人は多いだろう。その意味で、「ちいかわ」の受容の広がり方はキャラクター先行型と言える。
わかりやすく言えば、サンリオの「ハローキティ」や、サンエックスの「すみっコぐらし」のような、マスコット的に受容されるキャラクターのように世間に流通していると言える。キャラクターそれぞれの基本的な性格設定はあるが、そのかわいらしいビジュアル自体が人気の核にあり、人々がグッズを持ち歩いたり身に着けたりすることで、街中に拡散されていく。
実際、「ちいかわ」のライセンス管理をしているのは、「コウペンちゃん」などのキャラクターを管理するスパイラルキュートであり、基本的な売り方そのものはサンリオやサンエックスなどのキャラクタービジネスに近い方向性にある。少年ジャンプなどの人気マンガを原作とする作品群とは、ビジネスモデル自体が異なると言える。
しかし、「ちいかわ」がサンリオやサンエックスのキャラクターと異なるのは、マスコット的な受容を中心としながらも、強固なストーリーラインでも勝負可能な点だろう。言うなれば、「ハローキティ」や「すみっコぐらし」的なマスコットキャラクターと『少年ジャンプ』的なストーリーマンガのハイブリッドな売り方を可能にするIPと言える。
同じマスコット的なかわいさで人気を博す『すみっコぐらし』も映画化されているが、公開前には、もともと明確なストーリーを持たない同作は果たして映画として成立するのかという不安の声もあったと記憶している。だが『映画ちいかわ』に関しては、そうした声はあまり聞かれなかった。今回映画化されたエピソードの物語としての強度が、原作ファンに信頼されていたからだろう。その意味で、「ちいかわ」は映画化に向いている作品と言える。
同時に「ちいかわ」は、キャラクターと世界観さえ守れば、多彩な物語を生み出せる構造がすでにある。しかも、必ずしも今回のような深いテーマ性の物語ばかりではなく、ゆるい日常も展開できる幅の広さもある。ここも『鬼滅の刃』のような一般のマンガIPとは異なるアドバンテージだ。
それゆえに、「ちいかわ」は国民的IPになれるポテンシャルを有しているのかもしれない。そのときに比較されることになるのは『鬼滅の刃』のようなストーリー重視のIP作品ではなく、アイコンとなるキャラクターを中心に無限に物語を紡げる『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』『アンパンマン』といった定番フランチャイズ作品だろう。
この分野は、定番IPが世代を超えて息長く支持され続けることになるため、新陳代謝が起きにくいが(少子化もそれに拍車をかけている)、久しぶりにその牙城に挑めるポテンシャルあるIPが登場したのではないか。かわいさで支持されるキャラクターを中心に持ち、なおかつストーリーも紡げて無限に展開可能。今作によって、子どもにも大人にも訴求できる実力があることは証明された。今後の展開が楽しみだ。私見では、ハードな方向を突き詰めるだけではIPの寿命が短くなる可能性もあるため、次回作があるなら、方向性の異なる物語に挑むのもよいのではないか。
アジアを中心に海外でも興行を伸ばせるか
「ちいかわ」の人気は日本のみならず、アジア各地に広がっている。とりわけ中国では人気が高い。2024年の中国の「超級IPアワード2024」を受賞するなど、非常に知名度が高い。また、台湾や韓国にもその人気は広がっており、『映画ちいかわ』の今後の海外での劇場展開にも期待がかかる。
中国展開については、政治問題も絡んでくるため、期待通りにスムーズに公開できるかはわからない。公開できれば間違いなく高い興行収入を記録できるポテンシャルがあるだけに、状況が好転することを期待したい。
また、「ちいかわ」のライセンス管理を担うスパイラルキュートの海外展開会社Spiralcute Internationalは2025年12月、世界的玩具企業Jazwaresと複数年にわたるマスター・トイ・パートナーシップを発表した(※)。Jazwaresは、すでに「ちいかわ」が大きく展開されているアジアを除く世界市場で、スパイラルキュートの主要キャラクター商品の玩具分野におけるマスター・トイ・パートナー兼グローバル・ディストリビューターを務める。「ちいかわ」の最初の玩具・コレクティブルラインは、2026年秋に展開される予定だとのことで、映画もその勢いに乗れるか注目したい。
参照
※https://www.jazwares.com/newsroom/spiralcute-international-announces-master-toy-partnership-with-jazwares
■公開情報
『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』
全国公開中
キャスト:青木遥(ちいかわ)、田中誠人(ハチワレ)、小澤亜李(うさぎ)、井口裕香(モモンガ)、内田雄馬(ラッコ)、淺井孝行(くりまんじゅう)、島袋美由利(シーサー)、春海百乃(古本屋)、最上嗣生(島二郎)、鈴木みのり(セイレーン)
原作・脚本:ナガノ
監督:及川啓
キャラクターデザイン:辻智子
コンセプトアート:橋本真樹
プロップデザイン:高妻匠
色彩設計:長井彩香
美術監督:眞﨑萌
CG監督:中野祥典
撮影監督:岡﨑正春
編集:高橋歩
音響監督:土屋雅紀
音響効果:倉橋裕宗(オトナリウム)
音楽:トクマルシューゴ/上水樽力
アニメーションプロデューサー:溝口侃
アニメーション制作:サイピク
製作:川上洋一、古澤佳寛
エグゼグティブプロデューサー:松崎容子
プロデュース:今福太郎
プロデューサー:小峯雅隆、障子直登
宣伝プロデューサー:林原祥一、斎藤愛子、狩野裕明
製作幹事:QTORY inc.
配給:東宝
©ナガノ / 2026「 映画ちいかわ」製作委員会
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