『ばけばけ』の“何も起こらない”物語がなぜ愛おしかったのか 5つの名シーンから振り返る

サワ(円井わん)との誤解と和解

トキは能動的ではなく、どちらかというと受け身で、周りの動きに巻き込まれて人生が変化していくが、トキと幼いころから仲の良いサワ(円井わん)や遊郭で働くなみ(さとうほなみ)は、トキとは違って、今の状況から抜け出そうともがいている期間が長かった。
それまで、なんでも分かち合える友人であったトキとサワだが、トキがヘブンと結婚。ほどなく、なみも身請けをされて結婚することで抜け出すが、サワは自分の力で正規の教師になろうともがいていた。そのことで、トキとの関係性もぎくしゃくして、トキが家を訪ねても居留守を使ってしまう。
悩んでいたトキだったが、ヘブンのことを追う新聞連載『ヘブン先生日録』にサワの頑張りを書くことで励まそうとするが……。
焦燥感や嫉妬心を抑え込まず、またサワが知り合った英語教師・庄田(濱正悟)もまた、錦織(吉沢亮)に対して同じような気持ちを持っていることも、サワを救ったのではないか。
その後、庄田からのプロポーズを断って自力で長屋を出ようと決心したサワ。そこにはいろんな複雑な気持ちがあっただろう。そんな気持ちを「おトキのせいだわ。わたしはおトキにはなれん」「シンデレラにはなれんけん」「全部おトキのせいだけん」と泣きながら気持ちをぶつけるシーンが、なんともいえず愛しかった。
ヒロインの隣にいるサワにも焦点があてられるところもこのドラマの良さのひとつだった。
フロッグコート

ヘブンの死後、トキは自分のせいでヘブン=八雲の人生がつまらないものになったのではないかと思い込み、ふさぎこんでいた。ヘブンの本の編集者であったイライザに、トキ自身の物語を書くように言われても、ヘブンとの日々を思い出すことすら痛みのようになっていた。
しかし、そんなとき、彼女が「フロックコート」を「フロッグコート」と間違っており、そのことをひそかに八雲が面白がって喜んでいたことを知る。そのことで、なんでもない出来事が、2人の間での幸せであったと気づけるのであった。思えば、このドラマもずっと「他愛のないこと」の連続で、それこそが幸せであったと気づかされる。
脚本のふじきみつ彦は、本作の発表当初から「何も起こらない」話を目指していると言っていたが、最終回にして、トキとヘブンの毎日に大きな出来事は起こっていないけれど、その心の中にはいろんなことが起こっていたことを、我々は知るのである。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』総集編
NHK総合にて放送
前編:8:15~9:43
後編:9:50~11:18
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK






















