『風、薫る』上坂樹里の「ふざけんな!」が社会に刺さる りんの縁談が象徴する現実

『風、薫る』直美の「ふざけんな」が刺さる

「この国じゃ逆立ちしたって幸せになれない。もうこんな国出ていってやる!」

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』が2週目に突入。初日の放送となる第6話では、異国に逃げ出したくなるほどの過酷な大家直美(上坂樹里)の生活が描かれた。

 直美は、住人全員が“大家”という姓をもつ路地裏の長屋に住んでいる。明治維新後、全国民に苗字の使用を義務付ける太政官布告が発令され、店子たちは長屋の大家である嘉平(春海四方)の「大家」姓を名乗るようになったのだ。『らんまん』(2023年度後期)で主人公の万太郎(神木隆之介)が暮らしていた東京・根津の「十徳長屋」を彷彿とさせる貧乏長屋で、直美は他人と一緒に暮らしながら、マッチ工場で日銭を稼いでいた。

 給料は一日中働いてもマッチ一箱分の額にしかならない。しかも、不器用な直美はたびたび失敗しては給料を減らされてしまう。女郎だった母親に捨てられた後、保護されて育った教会の炊き出しを手伝っているが、本来は他人の世話を焼く余裕もないほどに自身もまたひもじかった。

 そんな中、職場で工場長がしおりの代わりにお金を挟んでおいた本がなくなり、直美が謂れのない罪を着せられる。その前日、直美は幼子をおぶって働いている同僚が本を持ち帰るのを目撃していたが、工場長には話さなかった。自分がクビになる分には自分一人の問題で済むが、同僚の場合はそうはいかない。親が仕事を失えば、子供も路頭に迷い、最悪の場合は命を落とす可能性だってある。直美は理不尽だと思いながらも、同僚の罪を被り、工場を去った。勝気で、第1週では映るたびに悪態ばかりついていた直美の心根の優しさが伝わってくるエピソードだ。

 新たな職探しに出た直美は、かんざし屋で英語が通じずに困っている外国人を助ける。当時、英語を実用レベルで話せる日本人は稀であり、欧化を進めるにあたっては本来貴重な人材のはず。加えて直美が暮らす街は外国人居留地に近かった。そのため、直美はかんざし屋の主人に自分を売り込むが、「あんたが英語を話せるのは教会に捨てられたからだ」と全く相手にされない。さらには器量の良さを活かして妾か女郎になることを勧められ、直美は「ふざけんな!」と声を荒げる。

 妾か、女郎か。直美はその二択に抗いたくて、武器として英語を必死に身につけたのではないだろうか。しかし、英語が話せることは、皮肉にも彼女が孤児であることの証明になっていた。その出自や生い立ちゆえに、これまでも差別されてきたであろう直美からは常に諦念の色が滲んでいる。新しい働き口も見つからず、宣教師のメアリー(アニャ・フロリス)にアメリカに連れていってほしいと懇願する直美。「だって仕事はない。いい結婚話なんかあるわけない。だけど、結婚しなきゃ女はまともに生きちゃあいけない」と怒涛の勢いで社会への不満をぶつける、その様に彼女という人間の本質が詰まっている。

 一方、もう一人の主人公である一ノ瀬りん(見上愛)も直美が言っていることを実感していた。コレラで父・信右衛門(北村一輝)を亡くし、母と妹と3人で農業を続けているが、生活は貧しくなる一方。そんな中で不本意ながらも貴重な縁談話が舞い込み、りんは家族のために虎太郎(小林虎之介)への恋心を押し殺して嫁に行くことを決意する。女性が一人では身を立てることができない現実に対する失望。それこそが、のちに2人が看護師という手に職を得て、社会へと出ていく原動力になっていくのではないだろうか。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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