生見愛瑠による音楽映画の新たなマスターピース 『君が最後に遺した歌』道枝駿佑と紡ぐ言葉

 『今夜、世界からこの恋が消えても』で第26回電撃小説大賞を受賞した一条岬が、2020年に出版した、第2作『君が最後に遺した歌』が道枝駿佑(なにわ男子)の主演、生見愛瑠をヒロイン役として映画化。ちなみに道枝が、2022年に映画化された『今夜、世界からこの恋が消えても』に続いての出演となるのは、原作者のもつイメージと合致したからこそかもしれない。

 とはいえ、今作は生見の存在感が一番重要な役割を果たしているといえる。今作に出演する前まで、歌もギターも初心者だったとは信じられないほど、約1年半のトレーニングによって、見事なクオリティに仕上げてきた。それだけではなく、「どうして今まで歌わなかったんだ」と思えるほどの歌唱力のなかに、しっかりと生見らしさが反映されており、とにかく絶妙なバランスなのだ。

 作中歌でいうと、「君と見つけた歌」やライブオリジナル楽曲の「春の人」はインディーズ感を残しながら、大手レーベルからリリースされたていの「Wings」は、多くの業界人が加わっているであろう、タイアップソング的な絶妙な音質や強弱の違いを上手く表現していた。

 そんな楽曲の数々は、今までにも綾瀬はるかや新垣結衣などの楽曲やプロデュースを手掛けてきた亀田誠治によるもので、素材の活かし方を熟知している。

 日本の音楽映画といえば、例えば『タイヨウのうた』(2006年)の場合は、もともと歌手のYUIが主演を務めることで成り立っていた部分があるものの、『さよならくちびる』(2019年)のように、歌手ではない俳優が歌唱部分を吹替えなしで挑んで成功した例はいくつかある一方で、失敗例もそれなりにある。しかし、今作は大成功だ。

 生見といえば、“めるる”という愛称で、モデルはもちろん、バラエティ番組などでも活躍しており、先日も『R-1グランプリ』(フジテレビ系)の司会を務めるなど、マルチタレントとしての印象も強い。ところが一方で、『モエカレはオレンジ色』(2022年)や劇場版『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜南海ミッション』(2025年)といった作品のなかでみせる演技力の高さと、成長スピードは目を見張るものがあり、俳優としても評価さるべき逸材といえる。

 ちなみに4月29日から公開される『SAKAMOTO DAYS』では、決して出番の多い役ではないのだが、そんななかでも独特の存在感を放っており、また違った一面を観ることができた。

 そして今作は、ある意味、生見の演技の幅広さが試された作品だといえるし、そこに歌唱力も加わっているのだから、生見にとって、間違いなく代表作となるはずだ。

 キャッチーなサウンドと、作中の繊細なドラマがリンクすることで、一曲一曲に存在感を与える構成は、まさに音楽映画の神髄。日本の音楽映画というカテゴリーにおいて、新たなマスターピースが誕生したといっても過言ではない。

 生見演じるヒロイン・綾音は、発達性ディスレクシアという、トム・クルーズやスティーヴン・スピルバーグもそうだったといわれる学習障害のひとつで、文字の読み書きをすることができない。

 音楽アーティストを目指すのであれば致命的な問題ではあるが、綾音は、だからといって、音楽を諦めることをしない。

 詩は書けるが、歌は唄えず、楽器は弾けない春人との出会いは、運命でもあり、必然でもあった……。そんな人生のおもしろさを切実に感じさせてくれる。

 互いの欠点を補い合える関係は、引力のような魂の繋がりによって、巡り合えることもあるが、一生のうちに何度もあるわけではない。それに気づかない場合もあるし、気づいていても離れてしまう場合もある。

 だからこそ、綾音と春人にとってのファーストソング「君と見つけた歌」の制作過程と葛藤部分で時間を大きく配分しているのは、上手い構成だし、音楽というものがもつ奇跡を映し出しているようでもあった。

 音楽は、誰のなかにでもあるものではあるが、何かが欠けていると表現が難しく、それで挫折してしまい、音楽に携わることから逃げてしまうことが多い。今作において生見が天才的な音楽の才能を開花させたように、実は音楽の才能があっても気づかないままでいる人は意外と多いのだ。

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