『十角館の殺人』の衝撃再び Huluオリジナル『時計館の殺人』が描く、異形の館の惨劇

 『十角館の殺人』では角島、『時計館の殺人』では時計館の旧館という閉ざされた場所で人々が次々に殺されていく。鹿谷門実は外部にいて、べつの角度から謎を探ることになる。彼の助手的な役回りを前者では江南孝明、後者では福西涼太が務める。内部と外部でストーリーが並行して進む構成は両作で相似するものの、もちろん違うトリックが用意されているのが、ミステリとしての面白味だ。いずれも独立した小説として読めるが、『十角館の殺人』では事件の外部にいた江南が、『時計館の殺人』では現場の当事者になってしまう。かつてのサークル仲間が直面した恐怖と絶望を追体験するような状況におかれるわけだ。その意味で続編的な側面を持つ。福西は、かつての江南と同じような立場にありつつ、過去の記憶に悩まされる。

 『十角館の殺人』と『時計館の殺人』は、大学サークルのメンバーが主要な登場人物となる点で、『館』シリーズのなかでも青春小説の色あいが濃い。作中では、親しみ、疑い、いらだち、嫉妬など、互いにいろいろな思いを感じていた仲間が、次々にこの世から去っていく。身近だった友人といつの間にか疎遠になる、そんな青春の喪失感を、これらの小説は連続殺人というミステリのスタイルで表現しているようなところがある。そのため、残忍なシーンが少なくないのに、切ない印象が残るのだ。

 シリーズに登場する館は、それぞれが独自の論理、雰囲気を持っている。なかに入った人々は、館の論理、雰囲気にのまれて、その先入観のなかでしか物事を考えられなくなってしまう。時計館の旧館を訪れた一行は、予定された3日間が経過しなければ外から扉を開けてもらえず、内側から開けて脱出することもできない。そのなかで犯人は、重い置時計を頭部や顔面に振り下ろしての殺人を繰り返す。壊れた時計の針はもはや動かず、犯行の時刻を指し示す。生き残った一人ひとりが相手を疑い動揺し、早く出られる時がこないかと焦燥感をつのらせても、彼らとは関係なく時計は時を刻む音を発し続け、時間になれば鐘を鳴らす。待つことに耐えられない者はアルコールでやり過ごそうとし、怒りを時計にぶつけて壊したりもする。

 原作小説には、鹿谷門実が定時法と不定時法に関する蘊蓄を語る場面がある。1日を24等分して時間の単位とした西洋の定時法と、1日を昼と夜に分け、それぞれを6等分した過去の日本式の不定時法を比べてみせるのだ。時間を機械的に管理する定時法と、季節ごとに時間が伸び縮みする不定時法の違いに触れ、あつかい方や受けとり方によって時間というものが変化することを指摘する。

 そのように時間にまつわる多彩なモチーフを含んだ物語のなかで、特に重要なのは、10年前に時計館の今は亡き先代当主・古峨倫典(こがみちのり)の娘・永遠(とわ)が14歳の若さで死んだことだ。古峨家に信頼されていた占い師・野々宮泰斉(ののみややすひと)は、倫典の妻で永遠の母・時代(ときよ)は28歳を迎えた後に死ぬと告げ、現実となった。永遠は亡き母と同じく16歳で花嫁になることを夢見ていたが、野々宮は彼女も16歳の誕生日を前に死ぬと告げ、結果的にそうなった。母娘は、予言通りの時間経過をたどったのだ。時計館の旧館にやってきた超常現象研究会のなかには、小学生の頃に永遠と会った者もいるようだが、なかなか詳細を思い出せないし、過ぎた時間は自由にならない。ほかにもこの物語は、人間と時間の関係や戦いを様々な形で描く。

 「永遠」と名づけられながら若くして死んだ彼女は、不在でありながら物語の中心にいるヒロインであり、先に述べた青春の喪失感を象徴している。最も切ないキャラクターである。すべての謎がついに明らかになった時に到来する風景は、驚異的かつ幻想的なものだ。

■配信情報
Huluオリジナル『時計館の殺人』(全8話)
Huluにて配信中
出演:奥智哉、青木崇高、鈴木福、神野三鈴、六平直政、角野卓造、嶋田久作、矢島健一、山中崇、今野浩喜、向里祐香、岡部ひろき、吉田伶香、渡辺優哉、阿部凜、藤本洸大、伊武雅刀、池田鉄洋、仲村トオル
原作:綾辻行人『時計館の殺人(上)(下)』(講談社文庫)
監督:内片輝、山本大輔
脚本:戸田山雅司、早野円、藤井香織、内片輝
音楽:富貴晴美
オープニング曲:「よもすがら」ずっと真夜中でいいのに。(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
企画・制作:内片輝事務所、いまじん
製作著作:HJホールディングス、日本テレビ
©綾辻行人/講談社 ©HJホールディングス・NTV
公式サイト:https://www.hulu.jp/static/tokeikannosatsujin
公式X(旧Twitter):@tokeikan_hulu

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