『若い広場 オフコースの世界』が必見な理由 幻の番組に刻まれた“美しいコーラス”の響き

 CSホームドラマチャンネルでドキュメンタリー『若い広場 オフコースの世界』が放送される。1982年3月21日にNHK教育テレビで放送された番組で、今回がCSでは初放送ということになる。

 小田和正、鈴木康博、松尾一彦、清水仁、大間ジローの5人体制で活動していたオフコースが、アルバム『over』をレコーディングする様子を実に約2カ月半にわたって密着取材したドキュメンタリーが本作である。途中で前年の日本武道館公演の模様と、ノンフィクション作家の山際淳司による小田和正へのインタビューと、音楽評論家の田川律によるメンバー全員へのインタビュー、草野球に興じるメンバーのオフショットなどが挟まれている。

©NHK

 当時、彼らはテレビ番組に出演しない方針を取っており、取材すらままならなかったという。メンバーの素顔をテレビで見られるのは非常に貴重な機会だった。ソフト化はされてはいるものの、現在も配信などはされておらず、オフコースのファンの間では「幻の番組」と称された。

 ここで、この時期のオフコースの立ち位置について振り返っておこう。1970年代に不遇の時期を過ごした彼らだが、デビュー10年目にあたる1979年にリリースされたシングル「さよなら」の大ヒットで一躍人気バンドとなり、1980年には日本武道館4日間連続公演を成功させる。1981年にはアルバム『We are』が日本レコード大賞ベストアルバム賞を受賞している。

 本作がオンエアされた半年後にあたる1982年6月には前人未到の日本武道館10日間連続公演を行っており、武道館公演のチケットの抽選に応募したハガキの数は52万通に達していたという。オフコースはまさに人気絶頂だった。あえて比較すれば、現在のMrs. GREEN APPLEのような存在だったと言えるだろうか。

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 『若い広場 オフコースの世界』の本編に余計な演出はまったくない。司会者もいなければ、ナレーションもない。メンバーの話し声にはテロップが入らないので、何度かリピートしないと何を話しているかよくわからないだろう(ファンは録画を推奨する)。だが、それがとてもリアルである。

 レコーディング風景は実に興味深い。オフコースの曲作りは、曲も歌詞もない状態からスタートする。メンバーが作曲してきたコード進行に合わせて、繰り返しセッションしながら作り上げていくのだ。曲作りに悩み続ける小田の姿が際立っているが、小田とともにオフコースを始めた鈴木のクールなたたずまい、後から加入した松尾、清水、大間の明るさも印象的だ。

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 メロディーと歌詞が定まる前の状態の「哀しいくらい」のボーカルを小田が録音する場面では、清水がディレクションを行っており、オフコースがけっして小田のワンマンバンドではなかったことがよくわかる。ものすごく小声で「別れる歌はあんま書きたくないし」と小田が呟いていたが、最終的には前向きな歌詞になっているのも興味深い。ファンにとっては貴重な場面だろう。

 もう一つ印象的なのは、「愛の中へ」で小田と鈴木が美しいハーモニーを聴かせる場面だ。二人のハーモニーはオフコースの売りであり、グループのオリジンでもある。どこか張り詰めた空気の中、録音が進められていく様子が克明に映し出されるが、最後にちょっとしたオチがついて、ふっと空気がゆるむ。シングルカットされた「愛の中へ」のジャケット撮影の雰囲気も非常に和やかだ。

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 その一方で、山際淳司による小田和正のインタビューでは、「(オフコースが)5人で一つの塊という時期は過ぎてきたような気がする」という発言が飛び出す。実はこの時期、オフコースは「解散」に向かっていた。

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