『進撃の巨人』とは何だったのか? 現代世界にも連なる「守るための戦い」という地獄

『進撃の巨人』とは何だったのか?

自由の逆説に囚われる主人公

 国境や壁といった線を引いて、自分たちと相手を分断して争う人間たち。一方で鳥は国境も壁も関係なく空を飛び回る。自由を象徴する鳥に見とれていたエレンは、果たして本当に争いをやめられない人間の業から自由になれただろうか。

 50メートルの壁に囲まれた世界で生きるエレンは、壁を疎ましく感じ、自分たちは鳥かごに囚われているのだと感じていた。だからこそ、その壁を悠々と飛び越える鳥に憧れた。

 その壁の向こうには海があり、その海の向こうにいたのは敵だった。どこまで進めば自由になれるのかとエレンは海を指さしながら問う。人はどこまで行っても争っており、何かに囚われており、壁の中も外も同じだったとエレンは失望する。

 それでもエレンは歩みを止めず、人類の虐殺へと向かう。それは104期の仲間を守るためであり、同時にそこには個人的な動機も潜んでいた。「自由になりたい」という渇望だ。

 エレンは結局自由だったのか、それとも不自由だったのか。ここには「自由の逆説」がある。端的に、エレンは「自由になりたい」という想いに囚われすぎていた。「自由になりたいという気持ち」から自由になれなかった。

 「自由になりたい」と願い、進み続けること自体が、彼を争いの奴隷にしていたのではないか。エレンが人類共通の敵となり、自らを犠牲にして仲間を守ろうとした結末においてさえ、結局のところ争いをなくすことはできなかったことが示唆されている。

 「守るための戦い」も「自由への渇望」も、人を争いから解放してはくれなかったのだ。エレンはどこまでも鳥のように自由になりたいと思い進み続けた。しかし、生きているうちにはそれが叶わなかったのだ。

そんな地獄でも生まれてくることは素晴らしい

 自由にもなれないし、争いも止められない。そして、人間は地を這うしかなく鳥にもなれない。そんな世界は地獄だ。

 では、そんな地獄に生きる価値はないのか。獣の巨人・ジークの言うように、この世界に生まれてくること自体が悲劇なので、生まれてこない方がよかったのか。

 『進撃の巨人』がすごいのは、一切世界をごまかさずに地獄を描きながらも、なおそれでもこの世界は生きるに値すると描いた点にある。

 アルミンは、「夕暮れ時、丘にある木に向かって3人でかけっこをした。なんでもない一瞬がすごく大切に思えた」と言う。人が生きる喜びを見つけるのは、そんな小さな一瞬にある。世界に絶望していたジークもまた、クサヴァーとのキャッチボールを意味もなく興じていた時の楽しさを思い出す。

 種を増やすためにも、国を守るためにも役立たない、何の意味もないことに興じること。それが実のところ、一番自由な状態なのではないか。

 世界は混迷している。絶望的な排外主義が世界で立ち上がっている。役に立たないものは不要と切り捨てられて効率ばかりが優先される。しかし、それでもなお私たちの生きる世界には美しいものもあり、生きるに値するものがある。かけっこをすること、キャッチボールをすること、友達と話すこと、海や山に行くこと、アニメや映画を見ること、マフラーを巻いてもらうこと。それらは何の役にも立たないが、それゆえに生きることの価値はそこにある。この作品はそう描いているのだ(おまけマンガの『進撃のスクールカースト』ですらそういう結末だった。「お前らと映画見れて楽しかったよ」というエレンのセリフ)。

 人は争いをやめられない。しかし、もしみんながどうでもいいこと、役に立たないが美しいものや楽しいことに夢中になれば、その時だけは争わずに済むのかもしれない。ずっとキャッチボールをしていることさえできれば、この世界はただ美しい平和な世界になるかもしれない。

 争いを止められない人類の業を圧倒的な深度で描きながらも、小さな幸せはそれに匹敵するのだと力強く描いたからこそ、『進撃の巨人』は名作なのである。

■公開情報
『劇場版「進撃の巨人」完結編THE LAST ATTACK』
公開中
キャスト:梶裕貴(エレン・イェーガー役)、石川由依(ミカサ・アッカーマン役)、井上麻里奈(アルミン・アルレルト役)、下野紘(コニー・スプリンガー役)、三上枝織(ヒストリア・レイス役)、谷山紀章(ジャン・キルシュタイン役)、嶋村侑(アニ・レオンハート役)、細谷佳正(ライナー・ブラウン役)、朴璐美(ハンジ・ゾエ役)、神谷浩史(リヴァイ・アッカーマン役)、子安武人(ジーク・イェーガー役)、花江夏樹(ファルコ・グライス役)、佐倉綾音(ガビ・ブラウン役)、沼倉愛美(ピーク・フィンガー役)
原作:諫山創(『別冊少年マガジン』/講談社)
監督:林祐一郎
シリーズ構成:瀬古浩司
キャラクターデザイン:岸友洋
総作画監督:新沼大祐、秋田学
演出チーフ:宍戸淳
エフェクト作画監督:酒井智史、古俣太一
色彩設計:大西慈
美術監督:根本邦明
画面設計:淡輪雄介
3DCG監督:奥納基、池田昴
撮影監督:浅川茂輝
編集:吉武将人
音響監督:三間雅文
音楽:KOHTA YAMAMOTO/澤野弘之
音響効果:山谷尚人(サウンドボックス)
音響制作:テクノサウンド
アニメーションプロデューサー:川越恒
制作:MAPPA
配給:ポニーキャニオン
主題歌:Linked Horizon「二千年... 若しくは... 二万年後の君へ・・・」
©諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会
The LAST ATTACK 公式サイト:https://shingeki.tv/movie_final/
The Final Season公式サイト:https://shingeki.tv/final/
「進撃の巨人」ポータルサイト:https://aot-portal.com
公式X(旧Twitter):@anime_shingeki
公式TikTok:https://www.tiktok.com/@shingeki_anime_official
LINE公式アカウント:https://lin.ee/VA6iy7k

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる