『ばけばけ』の“かわいさ”を体現するトミー・バストウ 人と文化を愛することの尊さ

正座や小骨がしんどくて、滞在記も書けなくなるほどであることを、正直に言ってほしかったというトキだが、ヘブンはやっとできた家族に心配をかけたくないから言えなかった。つまり、ヘブンの嘘は自分のためではなく、他者を思いやるもの。家族ができてはじめて「嘘」や「建前」というものを学んだのだろう。守りたいもののためには嘘や建前を駆使することもときには必要だということをヘブンは身を以て知ったのだ。こういったエピソードに触れると、異国にひとりやって来た人物をもっともっと深掘りして描いたドラマも観たかったと思う。
ただ、『ばけばけ』はひとりの作家の物語ではなく、あくまでもその作家を受け入れ支えた妻を主人公に据えた物語だ。ヘブンの慣れない日本の暮らしに悩む気持ちを理解したトキは、気づかなかったことを謝罪し、話してくれたことに感謝する。トキはネガティブだし自分本意だし、山橋をパイナップルで殴打するような野生味あふれた人物であるが、素直ではある。

もっとも最初に「わかりました。もう嘘、つくない。疲れました。ごめんなさい」と謝罪したのはヘブンで、先に折れるところが紳士的である。理想の夫かもしれない。ステーキを食べてその美味しさに目をくりくりさせるトキに、今度は司之介とフミも誘いましょうと言う優しさも持っている。ヘブンと結婚してトキや松野家が幸せであるのは経済的な面だけではない。彼が家族をこんなにも大事に考えていることだ。
他人ばかりの家にひとり入って、こんなにもその人たちを愛そうとするヘブンの心が、日本という異国に来て、その文化を愛することと重なって見えた。
モデルであるラフカディオ・ハーンが実際のところどういう人だったかわからないが、ヘブンはあたたかで愛情深い人物であることが伝わってくる。西洋料理をふるまった山橋役の柄本時生が、『ばけばけ』の脚本を「親しみやすい脚本でかわいいなと思います」と語っている(※)。異国からひとり日本に乗り込み、日本人のなかで芝居の仕事に勤しむトミー・バストウがこの脚本の「かわいさ」を十分理解して端的に演じているのを感じる。
参照
※ https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2278406.html
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK




















