『遠い人』を今宵の一杯と 玉田真也監督×NORMEL TIMESによる“営業時間外”の映画体験
慌ただしい日々の中、あなたはどのようにして映画を楽しんでいるだろうか。早めに仕事を切り上げて劇場に足を運ぼうかと考えるも、1日のタスクを終える頃にはレイトショーにすら間に合わない。そういうことは少なくないはず。しかし、こんなときでも映画が観たい。こんなときこそ映画が観たい。つかの間の夢の時間を欲する気持ちが、どんどん膨らんでいく。ならば配信で観よう。そしてできれば、ちょっとだけ贅沢な時間にしようではないか。お酒なんかを嗜みながら――。
そんな希望をこの上なく満たしてくれる、一本の映画がある。玉田真也監督が手がけた『遠い人』だ。これは30分の短編作品で、世代も生まれ育った環境も異なるふたりの女性が、特別なひとときを過ごす様子を軽妙な筆致で描いたもの。海辺で物語が展開する、ささやかなバカンス映画だともいえる。内容的にも、30分という尺的にも、1日の終わりのちょっとした贅沢にぴったりではないか。お酒は何にしよう。
物語は、千葉の海のそばのとある駅からはじまる。台湾からこの地にやってきたルイユン(李夢苡樺)は、恋人の母親である美弥子(坂井真紀)と待ち合わせをしていた。なぜ、このふたりだけで待ち合わせをしているのか。恋人の祐太も含めた3人で旅行をする約束だったが、なんと彼が仕事で遅れるというのだ。緊張するルイユンと美弥子は、どうにも気まずい時間を過ごしていくことになる。こうしてはじまってしまった旅は、いったいどのように着地するのだろうか。
初対面である美弥子はルイユンにとって、特別な相手だ。どうにかして仲良くなりたい。少しでも心の距離を縮めたい。恋人の肉親なのだから大切にしようと思うのは当然だろうし、自分のことを良く思われたい気持ちも分かる。しかし、これがどうもうまくいかない。
それもそのはず。アートオークション関連の仕事をしている美弥子は感じのいい女性だが、どこか心ここに在らずな様子。美しい田園を目の当たりにしながらも仕事の電話の対応に追われ、終いには道端にしゃがみ込み、膝の上にノートパソコンを乗せて作業している。相当な仕事人間のようだ。ふたりの気持ちはすれ違う。映画を観ている誰もが「やれやれ」と思うことだろう。
ふたりは初対面なのだから、そもそもの心理的な距離がある。そしてここにさらに“言語の壁”が加わる。ルイユンは多少の日本語は話せるが、それはあくまでも簡単なものばかり。場の空気を読んだり、相手の心の内を推し量ることができるようなレベルではない。自分の思っていることを他者に伝えたり、相手の気持ちを汲み取るには、ゆっくりと時間をかけてコミュニケーションを交わす必要があるだろう。お互いがそういう態度でなければ意思疎通などできやしない。けれどもふたりの間には“言語の壁”があるから、言葉(=想い)の交換には時間と労力がかかる。ルイユンと美弥子はともに同じ時を過ごし、一緒の道を歩むものの、その心と心はなかなか重ならないのだ。