波瑠×川栄李奈『フェイクマミー』に救われた3カ月間 “新しい家族の形”は未来への希望に

『フェイクマミー』が示した新しい家族の形

 波瑠と川栄李奈がW主演を務める金曜ドラマ『フェイクマミー』(TBS系)がいよいよ最終回を迎える。

 本作は、次世代を担う脚本家の発掘・育成を目的としたプロジェクト「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」の第1回で大賞を受賞した園村三によるオリジナル脚本をドラマ化するファミリークライムエンターテインメント。

 物語の主軸は、正反対の人生を歩んできた薫(波瑠)と茉海恵(川栄李奈)が、茉海恵の娘・いろは(池村碧彩)の未来のために“母親のなりすまし”=“フェイクマミー”という禁断の契約を結び、バレることなく学校生活を送っていけるかどうかなのだが、そのほかにも各回で考えさせられる現代的な問題をテーマにしてきた。

 たとえば、薫の社会からのドロップアウト。薫は東京大学を卒業して大手商社に就職し、大きなコンペティションで賞を受賞。自他ともに認める順風満帆なエリート街道を歩んでおり、薫本人も仕事一筋でバリバリ働くつもりでいた。しかし、昇進したのは出産した後、育児と仕事を両立するために時短勤務へとシフトした“ワーママ”の由実(筧美和子)。

 会社は、薫に「働く母親を支える制度改革を進めており、その象徴として由実を昇進させた」と説明した。最も大事である仕事の中身で評価しようとしない会社に薫は「独身で子どものいない女性社員は多様性に含まれないということでしょうか」と机の下で拳を作りながら悔しそうに言い、退職した。“多様性”という言葉が世の中に浸透して久しく、由実のような“ワーママ”ももはやスタンダードになりつつある。ただ、“ワーママ”がいるということは、その反対の“仕事にだけ熱中したい人”もいることを忘れてはならない。そのようにさまざまな立場の人が、お互いを思いやりながら暮らせることこそが“多様性”なのだと薫の短い一言は気づかせてくれる。

 そのほかにも、“理想の母親像”と“実際の自分”の違いに苦悩する保護者たちや茉海恵の会社の評判がそのギャルっぽい風貌や言動で左右されてしまうこと、薫と実の母親・聖子(筒井真理子)のぎこちない関係とその修復、そしていろはの出生にも関わる本橋慎吾(笠松将)とさゆり(田中みな実)の夫婦関係など、各回で注目したいところがたくさんあった。

 本作は、サスペンスで、登場人物の多い“学園もの”的な側面もあったが、それぞれが複雑にからみあうというより、個々の関係が深く描かれているのが印象的だった。それでもドラマ全体の雰囲気がそこまで重くならないのは、キャスト陣が適材適所で魅力を発揮していたからだろう。

 信念がある薫は、芯のある女性であり、それを突き通すぞという心も強かった。時折、不安そうな顔を見せるが腹を決めてパッと顔をあげ、強い目力で相手を見つめる波瑠に見惚れた人は多かったのではないだろうか。

 波乱に満ちた人生を生き抜き、立ち上げた会社では社員をまとめ上げ、信頼されている茉海恵は、実はくじけやすい。“フェイクマミー”計画を持ちかけてきたのは茉海恵なのに、「本当のことを言おう」と最初に言ったのも茉海恵だった。思い切りの良さの裏に隠したその弱い心に、寄り添ってあげたくなる。川栄の持ち前の愛らしさはこんなところでもいきてくるのだと驚かされた。

 「宇宙飛行士になる!」という夢に向かって朗らかに突き進んでいくいろはは、このドラマのヒロインそのもの。2人の母親の存在をどちらもなかったことにしたくないという素直さから生まれた「ママ」と「マミー」の使い分けは、“新しい家族の形”を示すもののように思えた。

 “ササエル”こと智也(中村蒼)と竜馬(向井康二)は、職場ではそれぞれ薫と茉海恵を支えつつ、智也は茉海恵に、竜馬は薫に思いを寄せているという“クロス”した恋模様もドラマの良いアクセントに。智也は、普段は真面目そうな雰囲気で薫の前では天然な部分も見せるのに、いろはをはじめとした子どもたちや茉海恵には優しい笑顔を見せていた。一方の竜馬は、茉海恵や会社の人の前ではふざけることもあるのに、思うような反応を返してくれない薫には、ちょっと面白くないように不満そうな顔をする。このそれぞれのギャップが目の前の人との関係性や思いを表現していて、その繊細な演技に心を動かされた。

 薫と茉海恵の関係、茉海恵といろはの父でもある慎吾との関係、茉海恵との関係を知ったさゆりと慎吾夫婦の今後、そして“フェイクマミー”の結末といろはの将来。それぞれをもっとじっくり見たい気持ちが強く、最終回であることが信じられない。「あと1回で終わるのはもったいない、もっと観たい!」と思ってしまう。果たしてどのような展開になっていくのだろうか。

『フェイクマミー』の画像

金曜ドラマ『フェイクマミー』

「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」第1回大賞作をドラマ化。正反対の人生を歩んできた2人の女性が、子どもの未来のために“母親のなりすまし”という禁断の契約を結ぶ。

■放送情報
金曜ドラマ『フェイクマミー』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:波瑠、川栄李奈、向井康二(Snow Man)、中村蒼、野呂佳代、池村碧彩、橋本マナミ、中田クルミ、 津田篤宏(ダイアン)、筒井真理子、利重剛、若林時英、宮尾俊太郎、朝井大智、筧美和子、浅川梨奈、笠松将、田中みな実
脚本:園村三
演出:ジョンウンヒ、嶋田広野、宮﨑萌加
主題歌:ちゃんみな「i love you」(NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
プロデュース:韓哲、中西真央、唯野友歩
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fakemommy_tbs/
公式X(旧Twitter):@fake_mommy_tbs
公式Instagram:fake_mommy_tbs
公式TikTok:@fake_mommy_tbs

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