“蜷川幸雄=小栗旬”はノイズか、それとも転機か? 『もしがく』菅田将暉が直面する壁

久部(菅田将暉)が憧れを抱く演出家・蜷川幸雄(小栗旬)が、あのトラブルだらけで上演された「冬物語」を評価する。それに浮かれた久部は、「ノイズがあるのが良い」という蜷川の受け売りでさらに突っ走ることになるわけだ。12月10日に放送された『もしがく』こと『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)は、いよいよ大詰めへと向かう第10話。
前回トニー(市原隼人)が警察に連行される間際に託してくれたカセットテープを使い、劇場オーナーのジェシー(シルビア・グラブ)に揺さぶりをかける久部。その結果、毎週120万円の売り上げ目標がなくなり、10分の1ほどの賃料でWS劇場を使わせてもらえることに。そんななか、リカ(二階堂ふみ)はこの機会に支配人の大門(野添義弘)を追い出して、劇場支配人の座を奪うよう久部にささやくのである。

“蜷川幸雄”の登場が、このドラマにどのような作用をもたらすことになるのかが終盤のひとつのポイントとなるだろう。なにせ八分坂という実在の場所をモチーフにした架空の世界、蓬莱(神木隆之介)のように実在の人物を投影したキャラクターがいても、基本的には“非実在”によって構築されてきたこの世界に、これまでセリフのなかだけで要素のように登場していた“実在”の人物が現れてしまったのだから。ある意味では、大きな壁を破ったことになる。
考え方によっては、この蜷川幸雄という実在/非実在の壁を破ってきた存在こそが、この『もしがく』というドラマにおける最大の“ノイズ”になるのかもしれない。今回の終盤、伴(野間口徹)が酔っ払いながらWS劇場の面々に語っているように、久部は「人の影響を受けすぎる」。もっともそれは、このドラマを観ている誰もが知っているところ。現に今回もますます魔性をあらわにしてきたリカの口車にまんまと乗せられ、大門夫婦を追い出すことに成功する。そうして自分の劇場を持つという夢を叶えた久部に、リカは続け様に「ここ以外のどこかへ」連れて行くことを要求するのだ。

どこまでも野心家でありながら、影響を受けすぎるうえにリカに恋愛感情を抱いている――いわば限りなく洗脳されやすい状態の久部は、このままでは当然のように義理や人情はおろか、演劇への情熱を空回りさせたままリカに呑み込まれてしまうことだろう。しかしながら、ここに“蜷川幸雄”からの「影響を受けすぎる」ことがプラスされれば、そこに大きな葛藤が生まれる。その役回りを実在のキャラに委ねることで説得力が生まれる。ある意味では、プロタゴニストをヒールに堕とさないための救世主として蜷川幸雄が現れたように思えてならない。

さて一方で、おばば(菊地凛子)が久部に告げる「“おとこ”から生まれた男に気を付けろ」という不可解な預言が、蓬莱の母親の名前が“乙子(おとこ)”であり、「僕は“おとこ”から生まれた男」だという言葉に結びつく。たしかに蓬莱は三谷幸喜の若き日をモチーフにした役柄であることは周知の通り。単なる久部の観察者としての役回りで終わるはずがなく、もしかすれば彼も、蜷川幸雄のように実在/非実在の壁を(蜷川とは逆方向に)超越してくるのかもしれない。
1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。
■放送情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
フジテレビ系にて、毎週水曜22:00~22:54放送
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/
公式X(旧Twitter):@moshi_gaku
公式Instagram:@moshi_gaku
公式TikTok:@moshi_gaku






















