井川遥が語る俳優業と人生の揺らぎ 子育ての経験で得た“自分が大事にしたいもの”への意識

井川遥が語る俳優業と人生の揺らぎ

年齢を重ねたことで得た気づき

ーーご自身の人生や健康について、どのようなことを考えましたか?

井川:須藤を演じるにあたって、医療従事者の方に病気のこと、治療のことなどを詳しく伺いました。私自身も検査を受けたり、ストーマも実際につける練習をしたり、オストメイトの方にもお会いして生活の中で苦労されていることなど伺いました。医療に従事する方たちも、この作品を通して、健康や健診の大切さを知ってほしいとおっしゃっていたのですが、私も今回の須藤という役を通して、そういうことを伝える架け橋になれればいいなと強く思いました。私たちの世代は、親の老いを感じ、自分自身も揺らぎ始め、子育ての難しさにも直面しているところがあって。自分ではコントロールできない中で生きていると思うんですよね。

ーーそれこそ、明日何が起きるか本当にわからないですよね。

井川:若い頃って、何を幸せだと思うかは千差万別だと思うんですけど、この年齢になってくると、みんな同じ方向に向かっていくように思うんです。私自身も、この数年、人の一生の時間について考えることが増えてきました。日常の細やかな幸せを尊く感じるのは歳が教えてくれること。1日1日を大事にしていきたいと改めて感じました。

ーー働き方やご自身のキャリアについても考え方が変わったところはありますか?

井川:自分が大事にしたいものにフォーカスするという、シンプルな考え方になってきています。若い頃って、取り越し苦労が多かったり、どうしても周りの声が気になってしまうことが多くて、協調性を重視していたところがあったと思うんです。でも、価値観も、表現の仕方も人それぞれでよくて、自分のほうに意識が向いているからこそ、人と寄り添いながら調和できるという考え方になりました。それは年齢を重ねたことで得た気づきでもありますし、子育てという尊い経験を経たからだと思います。

ーー子育てを経験して変わった部分も大きいと。

井川:子どもを育てる中で自分自身が成長していく時間になっているんですよね。日々こぼさずやっているつもりでも、ポロポロといろんなことが抜け落ちていたりしますから。すべてが未経験で、初めてづくしのことばかりなので、緊張感を持ちつつも、丁寧に過ごしていくようになりました。人はどうやって成長していくのかを目の当たりにして、自分の経験に足りなかったものを与えながら追体験をしているような感覚があるんです。役者という職業が誰か他の人の人生を生きているという意味では、すべて繋がっているのかな、とも思います。

ーー俳優としてのキャリアは20年以上になりますが、お芝居の取り組み方に変化はありますか?

井川:どのシーンをやるときも自分の中で“課題”みたいなものがずっとあるんですね。クリアできたと思うとまた新たな課題が見つかって、それの繰り返しです。変わったことといえば、台本の読み方。昔と比べて、いろんな解釈の仕方ができるようになってきたと思います。それとそのシーンの感情をどのように見せていくかなど監督に質問したりできるようになったことは大きいですね。

ーー経験値によって変わったことも大きそうです。 

井川:この仕事を始めた頃は、与えていただいた環境で、いつか期待に応えられるようになりたいというのが原動力でした。今は自分の役割を真っ当するために準備が何よりも大事で、できるだけ広い視野で現場に立てるように心穏やかにいたいと思っています。俳優は“慣れる”ということが本当にない仕事だなと思いますし、まだまだ経験を積まないと、そう思います。

■公開情報
『平場の月』
全国公開中
出演:堺雅人、井川遥、坂元愛登、一色香澄、中村ゆり、でんでん、安藤玉恵、椿鬼奴、栁俊太郎、倉悠貴、吉瀬美智子、宇野祥平、吉岡睦雄、黒田大輔、松岡依都美、前野朋哉、成田凌、塩見三省、大森南朋
原作:朝倉かすみ『平場の月』(光文社文庫)
監督:土井裕泰
脚本:向井康介
主題歌:星野源「いきどまり」(スピードスターレコーズ)
配給:東宝
製作:映画『平場の月』製作委員会
©2025映画「平場の月」製作委員会
公式サイト:https://hirabanotsuki.jp/
公式X(旧Twitter):@hirabanotsuki
公式Instagram:@hirabanotsuki

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