岩田剛典が“おじさん”になる日が来るなんて 『金髪』が“金髪”の物語ではない理由

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、金髪キャラを好きになりがちな佐藤が、『金髪』をプッシュします。
『金髪』

本作の岩田剛典を観て、ふと自分の中学時代を思い出した。2016年に『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』でキュンキュンして、体育の授業では三代目 J SOUL BROTHERSの曲でダンスして……あの頃は“岩ちゃん=爽やか王子”みたいなイメージだった。それが、まさか「自分、おじさんなんで」と自虐を繰り返す中年寄りの役を演じる日が来るなんて。正直、冒頭からずっと「岩ちゃんが“おじさん”!? いやいや」と驚きが止まらなかったが、その違和感がだんだんクセになってきて、途中から妙にしっくりきてしまう瞬間があった。
本作は、日本のちょっと変な校則や教師の働き方問題、SNSの炎上体質など、学校を取り巻く“あるあるだけど笑えない”現実を背景にした群像劇。きっかけになるのは、生徒たちが起こす金髪デモ。岩田演じる教師の市川は、金髪デモの中心人物で白鳥玉季演じる板緑に振り回されつつも、気づけば手を組むことになる。大人だから正しいわけでもないし、子どもが全部正しいわけでもない。本作はそのグレーな部分を、やけにリアルに突いてくる。

そして何より印象的だったのが、岩田演じる市川の観ていて妙〜にモヤっとする感じ。年上の先生たちに気を遣いすぎて空回りし、生徒にはいい顔をしようとして全部裏目に出る。挙げ句の果てには、道に広がって歩く人に自分から突っ込んでいくという、SNSでよく見る“ぶつかりおじさん”みたいな行動までかます。観ていて「いやいやいや!」とツッコみたくなる瞬間が何度もあるし、フツーに“イヤなヤツ”なのだ。岩ちゃんの出演作でかつてこんなに“好きになれない役”はあっただろうか。だが、そこがめちゃくちゃリアルでおもしろい。市川のどうしようもない“イタさ”を、今の岩田剛典が全力で体現しているのがまた絶妙で、しかも自分の中にまだ『植物図鑑』の“岩ちゃん”が残っているからこそ、そのギャップが不思議な味わいになっていた。

市川が物語の節目節目で言っている「これは金髪の話ではない」。結局これは、金髪デモの話でも、校則の話でもなく、“白髪が生えはじめた市川の話”なのだ。若いつもりでいたけど、もうそうでもない。仕事でもプライベートでも、ちゃんと決断しないといけない年齢になっている。それなのに気持ちだけはまだ“自分は若者側”だと思ってしまう。そのイタさが、痛いくらいリアルなのだ。市川のダサさが笑えるのに刺さるのは、他人事じゃなさが理由なのかもしれない。
■公開情報
『金髪』
全国公開中
主演:岩田剛典、白鳥玉季、門脇麦、山田真歩、田村健太郎、内田慈
監督・脚本:坂下雄一郎
配給:クロックワークス
©2025 映画「金髪」製作委員会
2025年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/103 分/G
公式サイト:kinpatsumovie.com
公式X(旧Twitter):@kinpatsumovie





















